構えている場所にボールが来るとは限らない

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女々しい上に、非常に気持ちが悪い。 綺麗な女性、見た目愛らしい男なら分かるが身長もガタイもそれなり、普通の上に地味が乗った様な忠臣がそんな台詞を吐くなんて。 「別に欲しいものなんて無いけど、忠臣は?」 「俺も別に無いかな…」 むしろ今この状況が最大級のご褒美とも言える時間。 これ以上何かを求めてしまったら、バチでも当たってしまうかもしれない。自分から当たりに行く趣味も無いと無意識に溜め息を吐いた忠臣は項に当たられた利桜の唇にも気付かないのだ。 そう言った様子が続けば、はて?と疑問に首を傾げる利桜が居るのは当たり前の事。 最近の忠臣の様子に何かあったのだろうかと隣で眠る忠臣をじっと見下ろす。 (普通にエッチは好きそうだけど…) キスすれば緊張しながらも、受け入れてくれる。 約束通り自分で後ろは弄らないと言う約束も健気に守っているらしく、利桜が慣らすのを小刻みに震えながらも耐えている姿は可愛らしい。 すぐに快感も得られる様になり、ぼろぼろと泣きながらもしがみ付く姿は百戦錬磨であったこの男にも流石に効くと言うもの。 あの陥没していた乳首だって、テレビを見ていても舐めたい吸いたいと言えば、若干の戸惑いを見せつつもシャツを捲り上げる忠臣は見せびらかしたいくらいだ。 (まぁ、見た奴は死刑だけど) けれど、ふとした時に大体の確立で溜め息を吐く忠臣が眼に着くのも事実。 何か言いたいのか、じっと見上げる姿に促してみるもはぐらかされるのが定番と化している。 まさか、とスマホのチェックもこっそりしてみたが、特別誰かとの目立つ遣り取りも無い。 あの志恩とも忘年会を予定しているようだが、一応邪魔する程親密になっている雰囲気も見受けられない。 (……忠臣って誰が好きだったんだろうな) もしかして、想いを押し込めているだけで、まだどこの誰かも知らない男に未練があるのでは? そんな疑惑まで出てきてしまう。 しかし、好きだと言ってくれたあの言葉に嘘偽りは無いと思いたい。 それとも、 (小さい時の感情を勘違いしてる?) 元は互いに大事な幼馴染。 先に身体を繋げてしまった事で彼の中で感情がごちゃ混ぜになっているのでは? マーブル状になっているそこに、ただ自分が付け込んだ、なんて事になっているとか? (分からん) 色々な考察は出てくるものの、何が事実かなんてそんな事は忠臣以外は分からない事だ。 元々色恋に頭を使う必要の無かった利桜からしてみれば、どう動いていいのやらと肩を竦める事しかできない。 結局は、 ―――まぁ、いいか。 考える事を放棄し、すよすよと寝息を立てる忠臣の隣へと潜り込んだ。 背中を向ける事無く、向かい合う形で―――。 ***** 最近バイトを始めた下野だが、これは冬の恒例行事であるらしい。 「だって、バイトしなきゃプレゼントも買えないし」 どうやら彼女に贈るクリスマスプレゼントの捻出が目的の様だ。 「――何贈る訳?」 「え?あ、あぁ、それがさぁ、ネックレスだの、バッグだのって選ぶ奴全部ブランド物でさぁ。どれか一つだけって思ってるんだけど、中々キツいよなぁ」 珍しく自分の話に忠臣が乗ってくれたのが思いの外嬉しかったのか、言葉とは反対に嬉しそうに眼を細める下野は自分のスマホを忠臣の方へと向けた。 画面に映るのは、欲しい物リストと書かれたURLと画像が張り付けられ、思わず忠臣も『……なるほど』と低く唸ってしまう程に一つ一つが高級だと理解出来る。 喧嘩ばかりの彼等だが何だかんだ上手くいっている様だ。 「お前も何か買う予定あんの?」 「え?」 「今付き合ってる人いるんじゃね?最近雰囲気違うしさぁ」 伊達に恋愛偏差値は忠臣よりはある。 少しの変化も見逃さないと言うよりかは、忠臣から洩れる雰囲気を感じ取っていたのかもしれない下野。 まさか、バレていたなんて、とは思わないが照れ臭さが先立つ忠臣は少し眼を伏せながら、その頬を赤らめた。 「まぁ…考えてはいるんだけど」 否定も肯定も無く、ただそれだけ言えば、下野がうんうんと大きく頷く。それは『やっぱりね』とも取れれば、『分かる分かる』と同調している様にも見えるが、有難いのはそれ以上に突っ込んでこない所だろう。 「俺のとこは欲しい物言ってくれるから金の工面だけで済むけど、何も言われないと困るよなぁ」 「物欲とか無いだけかもなんだけどさ」 「えー、でも好きな相手からなら何でも嬉しいだろうからさ、適当に贈れば?」 周りの浮かれた雰囲気に便乗してクリスマスを楽しまなきゃな、と笑う下野に忠臣もそう言うものなのかとクラス内をぐるりと一瞥。 確かに冬休みも始まるのもあり、皆一様に何処か浮足立って見えて来た。 特に女の子達は、気合の入れようが違うのか、特別可愛らしく見えてくるから不思議だ。 「適当なぁ…」 「お前今までも彼女から居たんだろ?そん時は何やってたの?」 「えーっと…」 ヤバイ。 全く覚えていない。 何を送ろうか、考えた記憶すら無い。 きっとそんな事を言えば、女の子からは非道扱いされるであろう所業に間違いない。
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