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「覚えてるさぁ。俺んち来た時、骨董屋のイカサマオヤジから買ったんじゃん」
「覚えてたか…」
「随分大事そうに、野球バッグにも入れて持ってたじゃん」
「そうだった?今も骨董市とかやってる?」
「うん。最近はフリマ的な出店も多いらしいけど」
「あの店もあるかなぁ?」
「今度行ってみるか。ひやかしに」
「掘り出し物があるかも」
「いやいや、これほどのお宝はないっしょ。未来が見えるやつ…な」
「あー、未来ね…」
「どれどれ、交流戦初戦の勝敗は見えるかぁ?これ、磨いてやれば?くすんでんじゃん。これじゃ未来もくすむだろ」
「…そっか…」
ミツキは笑いながら、オペラグラスを覗いていた。
「おーい。サクサク支度しろよ。間に合わなくなる」
「うん…あのさ、リサちゃん…結婚するんだって…」
「なにぃ?」
「あー、ん、なんでもない」
俺が忘れていることを覚えてる友達。
会わないでいた時間を容易に飛び越える。
未来が見えたら良かったのに…って、一寸だけ思った。
くすんだ未来?
鮮やかな過去?
ただ理由もなく楽しくて笑ってた。
リサちゃんの片エクボも其処に在った。
それなのに…
遠い空の月に手を伸ばす。
「ねぇ、覚えてる?」
その問いかけには…
もう応えなくてもいい。
ミツキが開けた窓から、5月の眩しい風が夢うつつの空気をさらって行った。
了
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