二章

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 当然のことだが、警察に私と安東を結び付けて考えられてしまうのは、非常に好ましくない。 「そうですか」  刑事は明らかに落胆の色を見せた。  安東弥生に関する情報を、今は少しでも集めておきたいのだろう。  逃走経路や方法は限られているが、所持金や生活態度などでその傾向が見えてくればそこからかなり絞ることができる。  それを私に期待したのだろうか。 「わかりました。本日はご協力いただき、ありがとうございます。  私がご自宅までお送りします」  刑事はそう云うとパトカーを発進させる。  今さらだが優さんは良き夫だった、と私は思っている。真面目で勤勉で、そして誰よりも優しくて弱者を放ってはおけないような聖人君子みたいな性格をしていた彼が、どうしてあんな女に走ったのかはわからない。  私は当時二十五、彼が一つ上の二十六の時に結婚して、今年でちょうど五年目になる。  彼の浮気を知った時も私の気持ちが冷めていくことはなかった。  その日も、いつもと同じように朗らかに笑う彼を見ていると、きっと何か理由があるのだろうと思って責める言葉はおろか知ってしまったということさえ云うことはできなかった。  安東弥生は間違いなく、優さんを殺したがっていたのだろう。  夫は若いが、子会社をいくつか持つ大企業の取締役をやっていたから、当然のことながらお金はある程度持っている。  彼に近づいてきている安東の目当てが金であるということは火を見るよりも明らかだった。  彼は昔から少しだけ抜けている人だから、殺して、上手い具合に金を奪い取るくらいは、そう難しい話ではないだろうが……。  今回の件に限ってそれは絶対にあり得ない――。  彼が殺されてしまった時刻。  その時には間違いなく安東弥生は、私がこの手で殺してすでに死体となって転がっていたのだから。  彼女が犯人ではあり得ない。
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