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眩暈は一時の気のせいだったのか、自力で立つことができるようになった私は彼の方を真っ直ぐに見据え、
「私だって、未だに信じられないわ……。ついさっき来た刑事さんたちから聞かされて――。
奏一くんもそうなんでしょう?」
「ええ、僕のところに連絡が来たのも、一時間前くらいです」
きっと彼も優さんの遺体と対面し、本人確認を行ったのだろうか。
この前来た時に、商社での彼の仕事はただでさえ激務で、ほとんど寝る間もないと冗談交じりに話していたのは記憶に新しい。その少ない睡眠時間を削られたのが相当体に応えているのか、はたまた優さんの死が彼の心にショックを与えたのかはわからないが、彼の目元には深く大きな隈が浮かび、いつもはピンと伸びている背筋は猫のように曲がっている。
「そうなの……」
彼は疲れた眼差しで私の顔をちらりと窺うと取り繕ったかのような不自然に感じられるほど明るい声で、
「紅茶を淹れてきましょうか」
ちょっと喉が渇いてしまいました、と呟くように云って笑おうとする彼の表情はどこか儚げで、私にはものすごく脆い硝子細工のように見えた。
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