一章

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   ドアの向こう側には、外套を纏った見慣れない大柄の男が二人、少し間隔を開けて立っていた。 「どちら様でしょうか?」  私が訝しげにそう云うと、手前にいた中年で小太りな男が、 「葛飾区D署の者です。西山千聖(にしやまちさと)さんでしょうか?」と云う。 「え、ええ――」 「朝方早くに申し訳ありません。実は旦那様のことでお伺いしたいことがあります。  お名前は西山ユウさんで大丈夫でしょうか? 優しいの優でユウ」 「そうですけど……、優さんが、何か?」  こんな真夜中に警察が、それも優さんを訪ねてやって来るなんて初めてのことだった。彼は非常に生真面目な人物で、まさか警察のお世話になることなどは、絶対にない。  それなのに、どうして……。 「では質問を変えましょう。安東(あんどう)弥生(やよい)さんという女性をご存じありませんか?」  ぴくり、と眉が痙攣するのが自分でもわかる。  優さんと安東弥生、警察がいったいどんなことを聞きたいのか、何を知ろうとしているのか、私にもだんだんと理解できてくる。
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