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四章
香ばしい紅茶の香りを感じ、ゆっくりと目を開けると、私の目の前のローテーブルには湯気を立てたアールグレイがティーカップに注がれ置かれていた。後ろを振り返り時計を見てみるとそう時間は経っていないようで、眠っていたのはせいぜい十分ぐらいだろうか。
夢の内容はいつになく鮮明に思い出せる。
奇妙な夢だったとは思うが、悪夢を見た後に襲う独特の疲労感や肩こりは全くと云っていいほどに存在せず、それどころかほんの少しだけだが体力の恢復をも感じることができる。
キッチンの方から、すたすたという子気味の良いスリッパの足音が聞こえてきて、
「千聖さん、紅茶にはミルクを入れた方がよかったですか?」
と問う奏一の顔が目に入って来る。
「ううん、このままでいいわ」
「そう、ですか」
彼は窓掛の方に背を向けた安楽椅子に腰かけ、自分の淹れた紅茶を一口、美味しそうにゆっくりとした動作で啜る。
私たちの間に、再び沈黙が流れる。
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