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「不躾な質問ですが……、千聖さんは――」
沈鬱そうにそう云った彼は、一拍ほどの間を置いて意味ありげに私に一瞥をくれると、
「兄さんが死んだ時刻に、どこで何をしていましたか?」
どきり、と突然のことに、心臓が跳ねる。
彼は射竦めるような鋭い視線で、ジッと観察するかのようにこちらを窺っている、ように見えた。
「どうして、そんなことを? まさかとは思うけれど、私が優さんを殺したとでも云うの?」
私はできるだけ平静を装った声音でそう返した。
滴りそうになる額の汗を手の甲で拭う。
「あ、い、いえ。実はこの質問を僕は警察の方から受けたものですから……。安東の捜索が難航したらもしかすると疑いは僕らの方に来るのかもしれません。だからいちおう、事前に確認しておきたくて……」
「そういうこと、なの……」
私は一時黙り込んで思考を巡らす。
まさか自宅で安東を殴り殺していました、とは云えない。不在証明は、いくら考えても立てられそうになかった。
「二階で寝ていたわ。その時はもうすっかり夜だったし……」
誤魔化すために下手にアリバイらしきものを彼に云ってしまうと、後で辻褄が合わなくなって自分の首を絞めてしまう結果になりかねない。
私はできるだけ無難な、口からの出まかせを云う。
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