一章

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 小太りの刑事は一音一音を、まるで噛み締めるかのようにゆったりとした、それでいて重々しい口調で云った。 「そんな、そんなはずはありません!   そんな……何かの間違いではないでしょうか?」  思わず人目を憚らず、つい大きな声が出てしまう。 「遺体は免許証を携帯しており、捜査員が免許証の写真と遺体の顔を照合し確かめました。その結果かなり高い(がい)(ぜん)性で、遺体は西山優さんであることが判明しています」 「そ、それで、主人の件に安東はどのような形で関わっているのでしょうか?   私には想像がつきませんが」  私が質問の方向を変えてそう云うと小太りの刑事はぽっこりと出た腹を揺すりながら「ううん……」唸り、 「それがですね。実は死亡推定時刻の直前、だいたい二十三時から零時半ですね。西山さんが安東弥生とチャットアプリにて会話していることがわかったんですよ。  その文面によるとどうやら待ち合わせをしていたらしく、その場所は殺害現場の河川敷、とまあこんな具合なんですがね」  と云ってにやりといやらしい笑みを零した、ように見えた。
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