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二章
それから数十分と経たないのに、私はすでに件の江戸川の河川敷にいた。
湿った晩夏の空気は周囲の草木を腐らせ、異様な腐臭が漂っているようにも感じる。
生温かい風が乾いた頬をゆっくりと撫でた。
私をここまで乗せてきた倉土刑事のパトカー以外にも二台、河原に面した小道に駐車されていて、付近には警察関係者がひしめき合っていた。道路の方にはいくつかのテレビカメラも見受けられ地元のマスコミ関係者もすでに来ているようだ。
「ご足労いただき感謝します、西山千聖さん。
どうやら西山さんはこのゴルフクラブで後頭部を殴られたようですが、幸いにも顔面部の損傷はほとんどと云っていいほど無いですから、身元判別は別段、難しくはないでしょう」
「ちょっと倉土さん。もう少しご遺族の気持ちを慮ったらどうですか。もっとオブラートに包むことも覚えていただかないと」
先ほどの若手の刑事がまた倉土刑事を諫めるが、私の思考はそんなことを認識しているほどの余裕はなかった。
倉土刑事の手の中にあるゴルフクラブは、まさに私が安東弥生と殴ったものと全く同じ形、そして同じ色をしていたのだ。
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