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そこまで値が張るものではないからこのクラブは量産品なのだろうが、こんなまったくの偶然、あるものなのだろうか。
私が黙ったままでいるのをいくばくか訝しく思ったのか若手刑事が、
「すみません。お気分を害されてしまったならば心より謝罪します。
ご遺体の確認はまた後日に致しましょうか?」
「いいえ――、大丈夫です」
私がそう云って頷くと、若手刑事は「では」と云って大きな柳の木の陰に横たわっているものに掛かっていた白布を取り去った。
私は布が取り除かれ、死骸の顔が露になっても、特に何も感じることはなかった。
私はただ一言、
「優さん――」と呟く。
「間違いありませんね?
この遺体は本当にあなたの旦那さんの西山優さんで間違いないのですね?」
そこに横たわり土気色の肌を露出している男は、たしかに刑事の云う通り私の夫である西山優で間違いはなかった。
突然、いままで一切感じなかった猛烈な吐き気が襲う。
「え、ええ。間違い、ありません」
何とかそう言葉を発すると今度は立ち眩みが襲いぐらりと視界が揺れる。
まるでメビウスの輪の中を歩いているようなそんな酩酊感、そして地面に身体を打ち付ける衝撃が、最後、ゆっくりと全身に伝わって来た。
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