一章

1/6
前へ
/48ページ
次へ

一章

   玄関のベルが鳴った気がして、私は思わずびくりと身を震わせた。真っ白い石鹸液の付いた手を洗い流すと、蛇口を閉めて耳を澄ませる。  さらにもう一度、音は小さいが、たしかにうちのインターホンが鳴らされているようだ。  時計を見れば時刻はまだ四時半である。  無作法な来訪者もあったものだ、と訝りながらも洗面所を出て玄関ホールに向かう。  もう一度、インターホンが鳴った。  相手は、どうやら私が出るまで鳴らすことを諦める気はないようだ。  チェーンロックは掛けたまま、ゆっくりと扉を開ける。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加