5. あずと美香

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5. あずと美香

 放心状態のまま、週末が終わろうとしている。  記憶が曖昧なのは金曜日からで……どうやって遠足を終え、家まで無事に帰りついたのかも、まったく覚えていなかった。  妄想に時間を費やし、私はすっかり寝不足だった。無駄にソワソワして、どこにも行く気になれずに一日中ダラダラしたまま、もう日曜の夕方を迎えている。そんな時、ベッドに投げ捨ててあったスマホが、何の前触れもなく急に震えだした。  驚いたことによる条件反射で飛び跳ねて落ちると、床にお尻の骨を打ち付けてしまい、ちょっと悶える。  その間にも、スマホは何度も小刻みな震えを繰り返していた。  恐るおそる覗き込んだスマホ画面には、目まぐるしくポップアップが飛び出し、その様子に目が回る。しばらく動けずにそれをただ眺めていると、スマホの震えは、@みか「みかがスタンプを送信しました」でようやく止まる。  嫌な予感はまたしても当たっているのだろう。メッセージを開いた私は、やっぱりすぐに後悔することになった。  あの短時間で……こんなに送ったの? みか「遠足お疲れ♡」 みか「楽しかったね」 みか「カレー」 みか「みかだけで作ったみたいになっちゃって」 みか「ごめんね?」 みか「ヤマトもユウタも」 みか「めっちゃ美味しいって言ってくれて」 みか「嬉しかったよねえ……」 みか「でもさ、翔の褒め方やばい……」 みか「なんか」 みか「本心で言ってるって言うか」 みか「心こもってる系?」  美香からのメッセージはこれが通常営業だった。でも、このタイミングで私に連絡が来たことに背筋が凍る。  そうやって私がフリーズしかけている間にも、美香からのメッセージは更に増えていく……  呆気に取られて画面を開いたままだったから、すでに美香側のスマホに既読が付いていることに気が付いた私は、慌てて返事を打つしかなかった。 みか「そういえば、あずって好きな人いる?」 みか「翔の事は好き?」 みか「みか、翔のこと大好き~♡」 みか「って、あずは十分知ってるか?w」 あず「全然いいよ」 みか「えーm(。≧Д≦。)m」 みか「応援してくれるの?(T^T)」 あず「翔はいつもカッコイイよね」 みか「えっ?ライバル?」 みか「なに~?あずどっちだよぉ?(つд⊂)」 あず「みかに返事が追い付かない(>_<)」 みか「なんだーq(^-^q)」 みか「じゃあね(☆∀☆)」 みか「これから買い物(~▽~@)♪♪♪」 みか「あず大好き~♡」 みか「また明日ねえヽ(●´ε`●)ノ」 あず「(≧∇≦)」  美香は、友達であるはずの私に興味が無い。というか、きっと自分にしか興味がない。  私と美香のやり取りを知っているたまちゃんには、クラスでぼっちになったとしても「美香とは距離を置いた方がいい」「寂しければ、休み時間の度にあずのクラスまで行ってあげる」とまで言われていた。  確かにたまに「えっ?」と思ってしまうコトをする美香だけど、私は美香と距離を置きたいとまでは思わないし、たまちゃんという素敵な友達が居てくれるとしても、クラスでぼっちになる事は、やっぱり私には耐えられなかった。  高校に入学して早々、私はぼっちになりかけていた。中学時代にも、ぼっちを経験した事がある私は、その事に焦り、余計に上手く立ち回れなくなると、空回りを繰り返していた。  そんな時、グイグイと声を掛けてくれたのが美香だった。私は迷わずそれに甘え、色んなタイミングで美香と組んでいるうちに、他の女子とは更に絡む機会がなくなった。そして今では、色んな意味で目立つ美香だけが、私と一緒に居てくれる。  それに、自分の意見を素早くまとめて喋る事が苦手な私には、私の意見もお構いなしに突っ走ってくれる美香と一緒に居ることは、意外と居心地が良かったりもしている。だから、少し歪な気はするけれど、美香は私の大事な友達なのだ。  しかし、どうしたものか。  私が勝手に美香と翔の間に挟まれているだけかもしれない。だけど……  この週末で思考がループし過ぎてて、妄想と現実がごっちゃになっている自信しかなかった。  でも遠足での翔からの告白が、私の妄想じゃなくて現実だったとしたら?  遠足で作ったカレーの事さえも、皆に真実を伝えようとした翔の事だ、「自分に正直に生きてマス」的なあれで、美香にも告白の事を言ってしまうんじゃないか?  妄想だったら恥ずかしさ極まりないけど、背にも腹にもLOVEにも変えれない。  そうだ、翔に口止めしなければ──
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