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6. ふたりの
「告白の返事、くれるんでしょ?」
「えっ?そうなの?」
「えっ?逆に……そうじゃないの?」
階段下の壁に寄りかかって待っている翔の姿を見つけ、思わず駆け寄ってみたものの……
私は心の準備とやらを、全くしていなかったようだ。
月曜日を何とかやり過ごして、私と翔は、無事にここで二人きりになった。
一階の一番奥にある技術室。その側の階段下。この場所を通る人が滅多にいないということを私は知っていた。
だから、私がいま翔と二人きりでいることを、誰かに見られる心配なんて無い。
それなのにどうも落ち着かなくて、意志に判した視線が泳いだ。
「どうしよう?」
「まさか、告白の返事?」
「うん」
「嘘でしょ?」
「言っときますけど、それはこっちのセリフだから!土日もあったし、遠足で疲れてたし、翔が私に告白してくれるだなんて……あんなこと、私の妄想だったっていう結論に傾きつつあったし……」
「ちょっと待って。あれ、あずの妄想とかじゃないから……俺は、あずが好き。だから、俺と付き合って欲しい」
「っは、そうやって、さらっと何かとんでもないこと言ってる……だって……こんな私に、翔から告白してくれるなんて思うワケないじゃん?口が滑って私が告白しちゃったならまだしも……」
「あず……?それって、もしかして、俺の事好きってコトで合ってる?」
「合ってるよ?私だって入学してすぐからもれなく翔のこと気になってたよ。イケメンなのに私にも普通に接してくれるし、なんだかんだで面倒見もいいし。優しいし。そんなん普通に、好きになっちゃうでしょ?」
「……っっしゃ!」
翔がクシャっと笑って小さくガッツポーズをしている。
あれ?わたし今、とんでもない事を言わなかったか?
「じゃあ、今日から俺達カレカノね?」
翔の嬉しそうなその表情を作ったのが、私のせいだなんて、俄かに信じ難かった。
うっかりつられてニヤケそうになった途端、脳裏に美香の顔が浮かぶ。
「ちょっと待って。今のなし」
「っへ?」
「無理だよ。私が翔と付き合うなんて!」
「なんで?好きなんでしょ?俺の事」
翔の自信を取り戻しつつも少し縋ってくるような言い方に、実は、めっちゃきゅんとした。
でも今は、そんな場合ではない。
「美香が翔の事好きなのは知ってるんでしょ?」
「まぁ……」
「私、美香の友達だよ?」
「知ってるけど?」
「じゃあ付き合えないじゃん」
「何故そうなる?」
「終わるよ?私。それによく考えたら、翔と付き合うなんてキャパオーバー過ぎて死ぬ」
あずの「うっかりしちゃった感じの告白」が可愛すぎて噛みしめていたかったのに。
驚いているせいなのか?あずは初めてのタイプで話の脈絡が崩壊していた。
あずが言いたいことは、恐らく女子特有の関係性のあれなのだろうけど、でもそんなことで諦めきれない位、俺の気持ちは膨らんじゃった後だし……
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