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最終話. ここに来た二人
あれから無事(……はたして私は無事なのか?)内緒で付き合い始めた私たちは、結構うまくやっている……と思う。
廊下ですれ違う時、窓の外を眺めてぼーっとしてる時、翔は不意打ちであの合図をしてくる。それが、まんまと嬉しかった。それに今日みたく、美香の目の前で合図をするという嫌がらせを受けたとしても、私は喜んでこの場所を目指してしまうし、ここで僅かな時間を一緒に過ごす度に、私たちの距離は縮まって、今では、もう、距離なんてほとんどないかもしれない。
少し困る事と言えば、あの時、私と同じくらい照れて赤くなっていたはずの翔が、もう、なんかすっかり余裕なことだった。
今では、毎度きゅん死にしそうになってる私をからかってくるくらいだし、それを楽しんでさえいるようだ。
それなのに私は、翔のことをどんどん好きになっている。
美香はといえば相変わらずで、そのテンションも変わらないし、翔のことを好きだと公言もしている。
だから、私たちが付き合っている事に美香は……全く気が付いていないのだと思う。
そんななのに、最近はヤマト君とイイ感じになってるという話も美香から聞かされていて、もう、私には何が何だか……そんな自由奔放な言動については、いったいどうしたら良いものなのだろう?
友達と言えど、美香については、そんな、お手上げ状態の案件と化していた。
「美香は……翔絡みでちょっと激しくなっちゃうだけで、根は良い子だから」
「俺絡み?ねぇ……」
あずが美香の話を持ち出す所だけ、俺はあずの事が嫌いだった。
美香の事は何とも思ってないし、正直ちょっとウザいなんて思っちゃう最低な俺は、敬意を込め、美香の事は頑なに「ちゃん」付けで呼ぶ事にしている。
まあ、あずはそんな事知らなくていいから、この先も教えてあげないけど。
「ごめん。翔のせいじゃないのに……」
「あずのせいでも無いけどな?」
美香についての色々を思い出してしまった俺はついうっかり、湧き出した苛立ちをあずに気付かれてしまった。
失敗した。器の小さい俺のせいで、あずに今、こんな顔をさせてしまっている。
よしっ、もうやめよう。
貴重なあずとの時間を、こんな感じで終わらせるのは悔しすぎるし……
「って、やめやめ。せっかく二人きりなんだから、癒しモードでいこう?」
「……うん」
ドキドキして大人しくなるあずも好きだけど、本当はもっと、挙動不審なあずが好き。
あと、あずには、ずっと笑っていて欲しい。
「では、気を取り直して抱きしめさせていただきますっ!」
「っく……何それ?」
「やっと笑った?ティリン──あずの笑みで翔は癒された!」
「へ?」
「あれ?あずがハマってるゲームって、こんな感じじゃなかったっけ?」
「全然違うし」
今まで学校の人に気付かれた事も無かった「変なゲーム好き」も、翔にはばらした。
何故かそれをめっちゃ喜んでくれた翔は、その場でインストールしてくれたけど、イケメンなのにゲームがめっちゃ下手くそ過ぎて面白かった。
でも、私の趣味に寄せようと必死になる翔が、なんだか可愛くて大好き。
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