2. 一階のつきあたり

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「……あず?」  私を自分の両手と冷たい壁の間にすっぽりと納め、翔は覗きこむ様に見つめてくる…… 「……ごめん」  顔を上げると、翔は急に優しくふっと笑った。 「そんな顔すんなって」 「うん……」 「まぁ、あずは、俺と隠れて会ってるってコトに興奮するんだから、仕方ないか?」 「違っ!そうじゃないけどっ……」  翔は悪戯っぽくそう言うと、そのまま私を抱き締める。 「いい加減、観念しろよ?」  翔にそう囁かれた私の左耳は、途端に熱を帯びて甘く痺れた── * 「くくっ……ってか、さっきのなんなん?」  私より二十センチ以上背が高い翔は、俯いた私の頭に顎を乗せたままで笑い出す。頭のてっぺんから僅かにケタケタと振動が伝わり、なんだか全身がくすぐったい。  翔の体温と吐息のかかる距離のおかげか、背中を預けている冷たい壁はもうすでに、私の体温で熱くなっていた。 「え……?わたし、何かしたっけ?」 「教室で合図した時。あんなに慌てたら余計怪しいって……」  翔は私をすっぽりと包んだまま、まだ楽しそうに笑っている。 「だって!美香の真ん前で合図するなんて……心臓、止まるかと思った」 「あずが慌ててんの楽しいんだもん。しょうがなくね?」  翔が悪戯っぽく小首を傾げると、長めの前髪がサラリと動く。  前髪の動きまでイケメンなせいで、思わず許してしまいそうになったけど……  あれは、私への嫌がらせでしかなかった。 「だから、美香は翔の事が……」  翔には何度も「女子同士のコミュニティについて」を講義していたが、翔はその度、不服そうに口を尖らせている。 「それ、あずより先に、美香ちゃんが俺を好きになったって話?」 「うん」 「俺って早い者勝ちなの?何それ……ウケる」  翔が少しイライラしてきた事を察知した私は、なるべく深追いをしない様な言い訳を、頭の中で必死で探し出すことにした。 「それに、美香はぼっちになりかけた私とつるんでくれてるし……」 「前も言ったけど、それさあ、友達っていえるの?この前だって……結局、全部あずに押し付けたのに、美香ちゃんは自分の手柄みたく話してたよ?」  それは先週、家庭科の実習でカップケーキを作った時の話だと思う。  
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