3. 翔とあず

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3. 翔とあず

 あずは「料理ができないキャラ」だって、別に構わないと言っていた。けど、あずが周りからそう言われている事に俺は、すごく腹が立っていた。  だってあずは、めっちゃ料理が上手い。それに、直接聞いた事は無いけれど、料理する事も好きなんだと思う。  別に、あずが本当は料理上手だって事実を、みんなに知らしめたいわけじゃない。むしろそんなことは、彼氏である俺だけが知っていればいい真実だ。  でも、あずの功績を横取りしたあげく「料理ができないキャラ」だなんて。あずがそんな風に皆からディスられてる事がムカつく。  それに、それが元を辿ればぜんぶ美香のせいだったという事を知って、俺はいよいよ本当に美香が許せなくなった。  これに笑っちゃうほど似た出来事を、約半年前にあずと美香が繰りひろげていた事を俺は知っている。  それは五月に行われた遠足で、高二にもなって飯盒炊飯をした時のことだった。  あの日は俺にとってめっちゃ特別な日になった。だから余計に根に持ってしまうのかもしれない── *  班決めの時、珍しくあずが積極的に「一緒に組もう」と言ってきた。まぁ直ぐにそれは美香の差し金だったって事に気が付いたけど。  でも俺は、あずが自分から誘ってくれた事が嬉しくて、そんな事はどうでも良かった。  遠足の飯盒炊飯は、定番のカレー作りだったから、どこの班も「女子が料理」「男子が火おこし」的な空気が流れていたし、うちの班もその流れを汲み取って、それぞれ作業に取り掛かった……はずだった。  俺、ヤマト、ユウタ、あず、美香の五人で組んだ班なのに、何故か軍手をはめた俺達の側に美香が居る。  屈めていた腰を起こして水場を見やると、五人分の食材と格闘しているあずが見えた。  ヤマトもユウタも「学年で断トツ可愛い美香に好かれていて羨ましい」「その気が無いなら紹介してくれ」ってよく言ってた位だから、美香の役割の事よりも、いかに美香を楽しませるかの方が重要そうだった。  あずは、いつも損な役割をしている気がする。  初めてあずとちゃんと喋ったのは入学してすぐ……そういえば、あの時もそうだった。
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