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石膏デッサンに疲れた千影は、風を求めて二階の窓を開けた。小さく、すすり泣く声が聞こえてくる。
窓の下を見ると、中庭の木陰で、ひとりしゃがんでいる男子がいた。クラスメイトの日下部くんだ。角刈頭と背番号『1』のサッカーユニフォームでわかる。
日下部くんは明るいお調子者で、教室では下品な冗談ばかり。
千影は彼に伝えたかった。影で泣いているつもりだろうが、そこは美術室の真下だよと。
「デッサン、まだ途中だろ」
先生に注意され、千影は窓を閉めた。
なかったことにするから、がんばれ日下部くん。
「明暗のコントラスト、もうすこし強く。反射光が映える」
「はい」
光と影が精密に描かれ、画用紙に、凛々しい像が浮かびあがる。
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