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2. 親友
4月7日は大学の入学式だった。
僕は地元の県立大学に進学したため、これまでと変わらず実家で母親の作った朝ごはんを食べ、同じ大学へ進学した高校の友人である岡崎悠人(おかざきゆうと)と一緒に大学の正門をくぐった。
一方、小学校1年生の時から高校卒業までずっと一緒だった美雨は、同じ県内だが美術大学に進学。彼女は昔から絵を描くことが好きで将来は画家になると言って聞かなかった。彼女の母親とうちの母親は互いの家庭状況や子供の話なんかは筒抜けで、よく母さんが美雨の進路のことを「大変そうだけれど、夢があっていいわね」と語っていた。
きっと、美雨の母親からは「隆貴くんは公立の堅実な大学に進んで偉いわね」とでも言われていたのだろう。高校を卒業する前に、美雨から「隆貴は良いよね。親が望む進路って感じで」という話を聞いた。
でも結局は美雨のお母さんだって、彼女の進路を応援していたに違いない。彼女が「合格祝いだって」と嬉しそうに僕に見せてきたカバンは、美大で使う道具や教科書が入るサイズ、生地も一眼で上等なものだと分かったからだ。
その彼女の笑顔を見て、僕はなんとなくチクリと胸が痛んだのを覚えている。
彼女が大事そうに抱えているカバンが、僕と彼女の未来を分ける決定的な証拠のように見えてならなかった。
「隆貴、どうかした?」
耳慣れた声にはっと我に返ると、周囲から聞こえる雑踏が頭の奥まで響いた。
途端、今自分がどこにいるのかに気がつく。
そうだ。僕は今日から大学生。不安と期待が心の中でせめぎあい、それでも未来の明るい展望に希望を抱いている。
そんな、どこにでもいる新入生の一人だ。
「ごめん。ちょっと考え事」
「考え事って、もしかして美雨ちゃんのこと?」
「うっ」
親友の悠人には、僕の隠し事なんて隠し事のうちに入らないのだ。彼とは高校3年間同じ時を過ごしたけれど、いつ何時でも僕の悩みに気づき、励ましてくれた。
僕がサッカー部で怪我をして大会に出られなくなった時も、悠人だけは一緒に泣いてくれた。残念だったな、とか可哀想に、とか月並みな言葉ではなく、
「俺はまだ諦めない」
と勇気づけ、僕の怪我が早く治るように一緒になって考えてくれた。
そんな彼だから、今この瞬間も、僕の悩みを瞬時に察知してくれたんだろう。
「悠人には敵わないな」
「バカ。お前の考えてることなんか、大抵は美雨ちゃんのことだけだろ」
「ははっ。そうかもな」
小学校の頃からずっと片想いを続けてきた美雨。
高校時代、その彼女と悠人と三人でよく落ち合った。悠人は初めて会った彼女のことを、「なんかお前に似てるな」と言った。その時、僕と彼は出会ってまだ二ヶ月くらいだったので、僕は驚いた。
そもそも僕と美雨が似ているなんて、当人たちは全く思ったことがなかった。美雨はいつも素直じゃないし、勝気で頑固だ。対して僕は自分で何かを決められない優柔不断人間なのだ。この進学だって、悠人が行きたいと言った大学だったから、僕もついていきたいと思っただけだ。母親も、県内の国公立大学だと聞いて喜んだ。僕は、僕の周りの人たちが僕について不満を持たないでいてくれるならそれで良かった。
でも、こういうことを悠人に話すと、「そういうとこ、似てるじゃん」と反論を受けた。一体どこが。僕は美雨という女性とは全くかけ離れた人間だと思っている。
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