1186人が本棚に入れています
本棚に追加
いつもの、聞き飽きたセリフ。
すげなく断り、呼応するように背を向ける。だってそれは__また明日もやってくるのが分かっているから。
それが今日は、いや、今日で最後。
そういう約束だ。
この目の前で私にプロポーズをする男は、そういう男なんだ。
二言三言交わすだけでも、私にはそれが分かる。
宇佐美司は二度と、私の前には現れないだろう。
私がプロポーズを断れば__。
でも、やっぱり現実味がない話だ。私は何も知らない。夫となろう相手のことを何も。これから知る?たとえそうだとしても、知った矢先に別れが待っている。
偽りの結婚。
夢を描いて、手と手を取り合い挙式をあげるカップルを何組も送り出してきた。その私が、嘘で塗り固められた結婚生活なんて、送れるの?送ってもいいの?
ホテルは救われるかもしれない。
その代わり__。
失うものだってある。人として、全うに生きなさいって、父に教わってきたのに、その全てを裏切ることになって__。
「わかった」
声がして、思わず「えっ⁉︎」と焦点を合わせる。立ち上がって、すでに背を向けている、宇佐美司に。
私の迷いを答えとして受け取ったのだろう。
もう二度と、会うことはない__。
もう二度と。
最初のコメントを投稿しよう!