2枚の婚姻届

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いつもの、聞き飽きたセリフ。 すげなく断り、呼応するように背を向ける。だってそれは__また明日もやってくるのが分かっているから。 それが今日は、いや、今日で最後。 そういう約束だ。 この目の前で私にプロポーズをする男は、そういう男なんだ。 二言三言交わすだけでも、私にはそれが分かる。 宇佐美司は二度と、私の前には現れないだろう。 私がプロポーズを断れば__。 でも、やっぱり現実味がない話だ。私は何も知らない。夫となろう相手のことを何も。これから知る?たとえそうだとしても、知った矢先に別れが待っている。 偽りの結婚。 夢を描いて、手と手を取り合い挙式をあげるカップルを何組も送り出してきた。その私が、嘘で塗り固められた結婚生活なんて、送れるの?送ってもいいの? ホテルは救われるかもしれない。 その代わり__。 失うものだってある。人として、全うに生きなさいって、父に教わってきたのに、その全てを裏切ることになって__。 「わかった」 声がして、思わず「えっ⁉︎」と焦点を合わせる。立ち上がって、すでに背を向けている、宇佐美司に。 私の迷いを答えとして受け取ったのだろう。 もう二度と、会うことはない__。 もう二度と。
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