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「おはよう」
夫の声が出迎えてくれた。
私が起きてリビングに入ると、司はもうスーツを着ており、そのネクタイの柄から、彼の仕事の大きさを推測しつつ、コーヒーメーカーをセットする。
すでに司はコーヒーを飲んだのか、新聞と睨めっこ。
「なにか食べる?パンくらい焼くけど?」
「いやいい、時間がない」
と、新聞を折り畳んで立ち上がった。そのまま背を向けると、妻に見向きもしないで出て行く__。
「晩ご飯は?簡単なものなら__」
「いやいい、遅くなる」
「あらそうですか」
若干の嫌味にも気づかず、我が夫は仕事に向かった。
妻はそれを見送るでも、行ってきますのキスをねだるでもなく、ただコーヒーの香りを吸い込んだ。
___結婚して2年。
案外、ちゃんと結婚した夫婦の生活もこんなものかもしれない。互いに距離感を保ちつつ、日々を穏便に送るのではないか?
テーブルの上には空のカップが一つ。
それすらも、洗わなくていい。自分が飲んだカップも、洗濯物も。掃除もちょっとした食事まで、家事の一切を業者に任せ、私は何もやらなくてもいい。
さすがに自分の下着くらいは洗うが、それも司からしてみれば、不利益だという。
ただ妻という枠組みを演じるだけ。
その中に詰まって溢れるだろう労働からは、私は解放されている。
それでも__と思う。
たまには、手料理を振る舞いたい時だってある。美味しいと微笑んでくれる夫ではないが__。
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