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川原さんご夫妻は、新郎が板前で新婦が服飾専門学生と、真っ向から意見が対立している。
「慎ちゃん、いつも美味しいもの食べてるんだから、いいじゃん‼︎」
「薫だって、別に一回でいいだろ!」
「ホントに女心が分かってないわね‼︎」
「ちょっとは男を立てたらどうだ⁉︎」
「包丁と結婚したら?」
「なんだと⁉︎」
「川原様、それでしたら今一度、ご予算と照らし合わせてみましょうか?飲み物、新しいの入れますね」
掴み合いにならないうちに、割って入る。すっかり冷めたコーヒーを入れ替える。
少し頭を冷やしてもらわねば。
花より団子の新郎と、あくまで見栄えを優先する新婦。
結婚資金があれば、2人の望みを叶えることは容易いが、かたや学生、かたや結婚を機に独立するという。
10歳、新郎のほうが年上だが、なかなか気の強い花嫁で、オプションを引いて予算と採算を取るしかないのに、一つとして頷かない。
互いが一歩も譲らず、歩み寄る気配もないまま打ち合わせが終わる。
「私が責任をもって、なんとかします‼︎」
2人に約束した。
無理なんて言ってられない。私のそんな意気込みに、2人はやっと顔を合わせて微笑んだ。とりあえず、目を見つめ合わせることには成功したわけだ。
問題は山積みだが__。
「で、どうするわけだ?」
「えっ⁉︎」
「綾瀬景子、あんな安請け合いして、お前は一体どうするつもりだ?」
いつの間に後ろに立っていたのか、中指で眼鏡を押し上げながら、司が私に問うた。
答えられないのが分かっているくせに__。
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