二度目の幼稚園

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さて…。 遊具やボールのある外で遊ぶか? レゴブロックや絵本のある部屋の中で静かに遊ぶか? どうやって遊ぶかで勇人が思案していると、スッとソナタが一人で外に出て行くのが見えた。 それを追ってアインも外へと出て行く。 それを認識すると、勇人は大人の意識へ覚醒させる。  『少しはアドバイザーらしい事でもしてやるか…』   勇人は遊ぶのを止め、二人がちゃんと友達になれるかどうか見守る事にした。 外に出て周りを見回すと…。 皆、思い思いな方法で遊んでいる。 走り回り鬼ごっこをしてる男の子。 遊具で遊ぶ女の子。 皆、楽しそうに笑っている。 ソナタは砂場で遊んでいるようだ…。 それをアインが静かに、肉食獣が小動物の獲物でも狙うかのように静かに近づいていく。   「ナニしてるの?」   相手に対して興味を示す意思の言葉。 知り合う前の人へとかける初めての言葉の一つ…。 幾つになろうと使える、人と知り合う為の基本の言葉。 アインは勇気を出して、砂場で遊ぶソナタにそう話しかけてみた。 自分から何か話しかける、コレがまず人と知り合う第一歩。 勇人は木陰から見守りつつ、グッと拳を握る。   『よしっ!切り出した方はなかなか良いぞアイン!』   一瞬、誰に向けて言われたのか理解出来なかったのか、ソナタはキョドって辺りを見回す。 自分に向けられた言葉だと理解すると、恥ずかしそうに視線をそらし、はにかんだ表情をしつつ声を絞り出す。 ソナタは多少恥ずかしがっているが…。 こういう時は、好奇心旺盛な人見知りをしない小さな子だと友達作りには良いのだが…。   「…おやまをつくって…おミズをながすの…。 イッショにつくる?」   最後らの言葉はほとんど聴き取れない程の小さなものだった。 だが元来、内向的なソナタには精一杯の勇気のいる誘いの言葉だ。 ソナタの側には象の形をした子供用ジョウロと小さなバケツがある。 それらを使って砂山にトンネルや溝を作りそこへ水を流したいようだ。 アインはニッコリ微笑むと大きく明るい声で…。   「うんっ!!あ~そ~ぼ~っ!!」   子供最強の言葉で答えた。   子供が友達を作る為に大事な二言めも言えたアイン。 ソナタと一緒に砂山を作る事になった。 勇人はそれを見て拳を再び握りしめ…。   『ヨシっ!!でかしたアイン。 コレで上手くいけば、今日中にソナタと友達になれる!! って…、これじゃあ何か俺。 父親のような立ち位置になってる?』   自らにツッコミを入れていると…。 いつの間にか砂山は大きく出来だしていた。 トンネルを掘ろうと、アインとソナタが両端から掘り出した時である。 それを見た一人のヤンチャな男の子が、急に走りよって来て砂山を…。 「どっかーん!!ガオ~~!バリバリ!ずぎゃ~ん!ギューーン!ど~~ん!!」 その男の子が砂山をメッタメタに蹴り壊してしまった。 明らかにワザとだ。   「ぎゃははっ!おっもしれぇ~!!」   獣の如くけたたましく笑う男の子。 一瞬、何が起こったのか理解出来ないアインとソナタ達だったが…。 ソナタは徐々に涙を浮かべ。 「うぇわ~~~~ん!!…」 とうとう泣き出してしまった。 泣き出すソナタに、砂山を壊した男の子の方が面喰らい驚いている。 その男の子にとっては、砂山を思い切り蹴り壊す事が、楽しいと思えたから壊したのに…。 なぜ、ソナタが泣き出すのか理解出来ない。 まだ、幼きゆえに…。 他人と自分の思考の違いを理解出来ていない。自らが感じる感情は、一方的に他者も同じ感情になると思いこんでいるのだ。   「よわむしっ~!ナクなっバーーカ!!」   泣き出したソナタに、どうして良いのか分からず、思わず大声で罵声を浴びせるヤンチャな男の子。 それを聞いて、ソナタは更に泣いてしまう。 ヤンチャな男の子は、泣き声が五月蝿いのと、泣き止めと言ったのに泣き止まず、思い通りにいかないイライラから…。 徐々にソナタに対して、腹が立って来つつあった。 それを見たアインはうろたえる。   『え~と…。こ、コレは…。 この場合どうしたら良いんですかね? 勇人様?』   オタオタしながら、アイコンタクトで勇人に助けを求めるアイン。   『どんなアクシデントにも即対応出来るんじゃ無かったのかよっ!!』   木陰から勇人はそうツッコミを心の中で入れながら、アインに必死に身振り手振りで何をすれば良いのか伝えようとする。   『アイン!! ソナタと仲良くなれるチャンスだぞ。「何するんだっ!!」って抗議して突飛ばせ!!』   そう勇人は口をパクパクさせながら伝えようとするが、当のアインになかなか伝わらない。 アインはどうしたら良いのか分からずに、ただただうろたえる。
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