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ひとめぼれ
「覚えてるはずよね、かつみくん。私と約束した、生徒会の決まりごと」
放課後、俺はみずほ先輩に呼び出され生徒会室に来ていた。内心はおっかなびっくりだったが、まずは平然とすっとぼけてみる。
「さあ、記憶にございませぬ」
テーブルを挟んで向かい側に鎮座するみずほ先輩は、この清新高等学校の女番長――ゴホゴホ、いや、もとい生徒会長である。
「それ、心当たりありありの返事よね?」
つややかで健康的な小顔のなかにぽっかりと開く、深い黒を湛えたおおきな瞳。燦々としたまなざしが俺を捕えて離さない。
「ははぁ~、ご名答でございます。でも、俺はミジンコほども悪くないっス」
「罪悪感ゼロの時点で大罪よ」
先輩は露骨にぷぅーと頬を膨らました。
まったく、そんなに非難的な顔をされたら美人が台無しになってしまう。いやむしろ可愛い。
「かつみくん、学校中で噂になってるよ。ちまたではケダモノ扱いなんだから」
みずほ先輩が俺を呼び出した用件は、俺の悪しき噂についてだった。心当たりはあるっちゃある。でも、まさか今回も逆恨みされようとは思ってもいなかった。
「えっ、俺がケダモノだって? そりゃ誤解っすよ、パイセン! 人間だって動物だし、つうか動物じゃなきゃなんだっていうんスか」
「あのね、きみはあくまで生徒会の一員なのよ。品行方正であるべきなのに、紳士的でない行動はご法度だって。最初に約束したでしょ」
「だいたい、生徒会って言ってもパイセンが蟻地獄みたいに引きずり込んだんじゃないっすか」
入学してからの部活勧誘会で行き場がなく浮遊霊のごとくさまよっていた俺に目をつけたのがみずほ先輩だった。
「内申点が上がるよ」「試験対策は任せといて」「もしかしたら女の子にモテるかもしれない」などの詐欺まがいの説得で無理やり生徒会に引き込まれた。なぜ俺のようなモブを自分の配下に、という疑問はいまだに拭えていない。
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