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 巡査長・幣原悟徳が事件の犯人を捜し、これほど実態が掴めなかった事件は後にも先にも、この一件だけだと彼自身は振り返る。  事件は真冬の都内で起こった。いや、起こっていたと表現するのが正しいか。  全国では来たる二〇〇二年の幕開けに人々が備える時節だ。師走の由来顔負けに誰もが忙しく駆け回る中、誰もを震え上がらせる凶行が起きた。  事件発生の場所は都内某所のアパートの二階の一室。そこで一人で暮らしていた女性が死体で発見された。女性は腹部を刃物で切り裂かれており、それによる失血死が死因だった。下の階の住人は発見前日の深夜に上階から暴れているような物音と大きな声がすると証言しているので、何者かが侵入し彼女を殺害したと考えられている。  警視庁にて、この事件の捜査会議が初めて開かれた。警視庁捜査一課の幣原悟徳巡査もこの捜査に参加している刑事の一人だ。角刈りに揃えた髪を撫でながら席に着く。 「それでは捜査会議を始める」  前方に座る管理官の声で、冬に似つかわしく会議室はパリッとした空気に包まれた。
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