23人が本棚に入れています
本棚に追加
挽歌
葬送の列が延びる。悲しみの数だけ延びる。柩を載せた車をひく人たちは歌う。悼みのうたを歌う。古来より人が挽歌と呼ぶ歌が、静かに辺りに降り積もる。咽ぶ声が、聞こえる。
「なんで?」茫然と母を見た。
ゆるりと首を振った母が受話機を置いた。色を失っていく景色と耳にしたばかりの言葉が信じられなくて、春陽はただ目を見開いていた。悪い夢から這いだすみたいに。
「ねぇお母さん、なんにも悪いことしてないのに……なんで?」
隣の部屋のテレビのように、自分の声が遠くに聞こえた。
「これから車で迎えにくるって。菅野先生、泣いてらしたわ」
「約束したのに」
「残念だったけど」
「残念って、なに?」
安易に言葉を発した母が見知らぬ人のように思えて、背中を向けた。ぷくっと歪んだ景色が、夢じゃないんだと胸を殴りつけた。
「お母さんなんて嫌い!」玄関に走ってシューズを履いた。
「落ち着いて春陽!」背中を声が追ってくる。
「嫌いだから!」ぶつかるようにドアを開け、外に走り出した。
今になればわかる。あれはやり場のない、理不尽な怒りだったのだと。
「はるちゃん」
緑色に吹く風に乗って、柔らかな声が両手を広げてくれた気がした。あれは小学五年生、忘れえぬ日になるはずだった夏の日。
最初のコメントを投稿しよう!