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バターにジャム
ガリ、ガシュ、ズリッ、ズ、ズ……。
無心に動かすバターナイフの先で、黄金色に溶けるバター。プルンと震えるいちごジャムを塗り重ねた春陽は、大きく口を開けた。
シャクッ。
口の横にはみ出たジャムを薬指で押し戻す。ちゅぷっ。冷たい牛乳といきたいところだが、お腹を壊すからホットミルク。
ベランダでは、グォーシュ、グォーシュと洗濯機の音。その向こうには陽射しに揺れるハナミズキ。お日様は今日も、容赦なく地上を灼き尽くすことを決意したようだ。
ティッシュで口元を拭いテーブルから立ち上がった。
二階の部屋に戻り、白黒ボーダーのカットソーとハーフパンツに着替えた。ポニーテールの額にヘアバンドを着けた春陽は、正直者の姿見の前でうっしゃ、と拳を握った。
「神さま違いますぅ。わたしが落としたのは、そんな立派なオノではありませぇん。なあんてな」
カーキ色のヤンキースキャップを被り、七分袖を捲り上げた。
「お母さん、ちょっと出かけてくるね」
「またお友達と会うの?」
リビングで掃除機を前後させる母が、気怠げに顔を上げた。
「ごめんね手伝わなくて」
「夏休みだからそれはいいんだけどさ。日焼け止めは塗った?」
「塗った塗った」
昨日は久しぶりに会った中学の友だちと、時間を忘れて遊んでしまった。なにしろ高一の去年は帰省さえできなかったのだから。
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