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探しものをする少年
他県の強豪校からお誘いを受けた春陽は、寮生活をしている。そのせいもあって、学校が休みになってもおいそれとは帰って来られない。去年なんて夏休みはないに等しかった。
広場の横を通り過ぎる時だった。十歳ぐらいだろうか、ハーフパンツにTシャツ姿の男の子が、腰をかがめてシロツメクサの上を歩き回っている。通り過ぎればいいものを、世話焼きの春陽は立ち止まった。
「何か落としたの?」
はっと顔を上げた少年は、賢そうな目をパチクリとさせた。こざっぱりと刈った髪のもみあげが汗で貼りつき、暑さをいっそう煽り立てる。
「探しもの?」
じっとこっちを見た少年は、くるりと背中を見せて走り去った。
あらま愛想のないこと。春陽は肩をすくめて歩き出した。でも気になる。どこかで見たことがあるような気がしたからだ。
でも弓道を教えたことがある子だったらあの反応はない。あんな無礼者は九文八分(23.5cm)のアディダスで踏み潰しものだ。
そっと戻ってみた。いた。やっぱり何か落としたんだ。ちいさいものだったら難しいかもしれない。重みのあるものならなおさら、クローバーの海に埋もれてしまうだろうから。
「ねえ、何を落としたの?」
振り向いた少年は今度は逃げなかった。
「落としてない」しつこいぐらいに首を振った。
「でも、探しものしてるんでしょ?」頷いた。
「なに?」
「約束」
眩しそうな顔でそう言った。
「約束?」
裏返りそうな春陽の声に少年は頷いた。風に枝葉を騒がせた木の根元には、セミの幼虫が這い出た丸い穴。夏の匂い。変な探しものをする少年。
「弓道やってる?」
春陽の問いかけに、今度は首を傾げた。違ったか。歩み寄り両手を膝に当てて姿勢を低くした。
「約束を探してるの?」意味不明だが合わせてみるしかない。
「どこへ行ったかわからなくなっちゃった」
少年は悲しそうに目を泳がせた。
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