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菅野のじっちゃん
「約束って、この辺りにありそうなの?」
うろうろと指さした春陽に、少年は首を振った。忘れちゃったと。
「メモみたいなもの?」首を傾げた。始末に悪い。
「どこにあるかも分からないの?」
春陽の困惑をよそに、少年はコクンと頷いた。厄介な子供だ。気になるとはいえ、これ以上関わってもどうにもならないだろう。早くじっちゃんにも会いたい。頑張って、と春陽は手を振った。少年よ、君のゆく道は果てしなく遠い。
「おぉ、はる坊、帰ってきてたのか。元気そうだな」
「じっちゃん報告! 四段とったよ」
「おぉさすが我が愛弟子。はる坊は中学で弐段までとったよな。それも凄いが高校で四段も狭き門だからな。よくやった」
髪の色はすっかり白くなったが、ドラマに出てくる剣豪のような佇まいは変わらない。耳かきのフワフワみたいなもので刀身を叩いていたらおそろしく似合いそうだ。その姿が人目があるときだけに限られることを知っているのは、わずかだが。
青嵐高校に誘われたときも、両親より先に相談したのはじっちゃんだった。顧問の先生宛に連絡があったから電話番号を知らなかったのだが、じっちゃんはすぐさま調べて電話をしてくれた。
「わたくし弓道具店を営んでおります菅野繁作と申しますが、弓道部の顧問の先生はおられますか」
取り次いだ人は反応を示さなかったようだが、顧問の先生が狼狽しているらしいことは、電話の脇で聞き耳を立てていた春陽にも伝わってきた。伝説の弓道家から連絡をもらえば当然のことかもしれない。そのとき改めてじっちゃん凄さを実感したものだ。
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