私に会いたい

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
糸が私を釣り上げる 深海から浮かんだ私は呼吸を戻して(くう)を吸う 吐いた息はため息か、感嘆か 吐くたびに出るものは幸せか、辛さか 浮かび上がった時は新鮮だけど 針が音を刻むと重くなる ああほらもう、数度の音で私は沈む 糸が切れて 私は落とされ 手繰り寄せても届かない もう手繰り寄せることなど叶わぬほど切れたから 「私に会いたい」 不可解な言葉は泡になり浮かぶけど私は沈む 心からの懇願の言葉は自然にしか届かない ひとには届かない、響かない かくいう私にさえも 沈んでしまう私に届くような重い言葉はどこにもない 「会いたいよ」 何度叫んでも届くことなどないだろう なんせ会いたいのは私だから だって、私なら 私の慰め方を知ってるでしょう 私の扱い方を知ってるでしょう 私の喜ばせ方を知っているでしょう だって、私でないと 私の悲しみを知ってくれないでしょう 私の辛さを知ってくれないでしょう 私の切なさも苦しさも何もかもを理解して私を慰めてくれるのは私しかいないでしょう だから 「私に会いたい」 私を助けてくれるのは、私だけだから
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!