雪を聞く

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雪を聞く

暖かい部屋で外を見る。 白いばかり。 指先で触れば溶けるくせに建物には重くのしかかる。 息が白くなる。 シャクシャクする積もった雪。 初めてついた私の足跡。まだ小さい。 シャクシャク。 車の轍は泥の色。 何度も轢かれて踏まれて。 ぐちゃりとしてる。 さて、どこへ行こう? 昨日お母さんはしっかり歩きなさいと言った。 そういったはずの人はそこには居ない。 もう一人だ。 自由でもあり、孤独でもある。 歩くことは出来る。 膝丈まである雪をかき分けることが難儀だ。 平地ならもっと足は上がるのに寒さと防寒靴の重さで足が上がらない。 寒い。暖かい物ほしいな。 ぼんやり考えが浮かぶけれど、お金なんて持っていない。 マフラーはしている。 けれども舞い散る雪がついて、温度も色も同じにしてゆく。 私の目の前は轍跡もなく、足跡もない白銀の世界。 ほぅと呟く。 「白いと冷たいのね」 かじかんだ人差し指は感覚もない。 降ってきた白は消えずに指先に残る。 ざくざくと大きな音をたてて進もうとも一面の白さは全く変わらない。 白は無慈悲で冷たくて美しい。 触れると凍てつく。 ともすれば痛いくらい。 髪も肌も臓腑も身に纏う衣すら雪で出来ている雪女。 「私は溶けてしまいたい」 春になったら。 すべて透明な雫と成れる。 頬を滑るのは雪だろうか、涙だろうかもう凍てついた肌には理解できない。 大好きだった母のように自分もと願う。 ザクザク。 あと少しで季節が廻る。 私の使命もあと僅か。 震える身体を叱咤して人里を目指す。 「あと少し」 新しい轍が見えた時私は自由になる。 季節は巡り、新たな時代へと遷ろってく。 人は怖がるだろうか? ほんの少し人間と戯れようか? 雪だるまと雪うさぎをつくる。 人の子に見えるよう温泉のすぐそばに。 近づけば私が溶けてしまうから。 吐息を吹きかけ細部を作る。 冷たい息。 人が凍る。
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