火のないところに、煙は立たぬ。

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 レジの脇にあるテーブルでホームページの更新をしていると、エプロンのポッケに入れていたスマホがブルブルと振動した。  書店の壁掛け時計を見ると午後6時55分指していた。  エプロンからスマホを取り出して画面を見ると、佳苗からの着信だった。    店内を見渡してお客さんの姿がないのを確認してから、わたしは電話に出た。  べつにバイト中のスマホ使用を禁じられいるわけではないが、やっぱりお客さんが店内に居るときには使いにくい。 「頼子〜? ぬ〜そ〜が〜(何やってるの)。新歓始まるよ〜」  スマホの向こう側から沖縄訛り全開の間延びした声がした。  頼子とはわたしの名前だ。    バイト中だ。と伝えると、佳苗は「あい? じゅんに(そうなの)?」と驚いた。  案の定わたしからの返信メールを読んでいなかったようだ。  まぁ、佳苗は知り合った頃からこういう女なので、今更なんとも思わない。思わないが、返信くらいちゃんと読んでもらいたい。 「まぁいいさ〜。バイト終わったら来てよ〜。頼子は幽霊会員だけど、一応サークルのメンバーさぁね〜、みんなも紹介したいから、お願いよ〜」  そう言うと佳苗は一方的に通話を終了した。  だから、場所はどこなんだって。  電話をかけ直して場所を聞こうかと思ったが、新歓に行かない理由になるので、そのままエプロンのポッケにしまう。すると、スマホがブルッと震えた。  確認すると、佳苗がメールで大城古書店の近くにある居酒屋の名前を送ってきていた。  店じまいを終えて、居酒屋に出向いたのは午後8時を少し過ぎた頃だった。  出迎えにやってきた店員さんに佳苗の苗字をつげると告げると、新歓をやっている個室へと案内してくれた。  障子を開けて中に入ると、部屋には五人の人間が居て、全員がこっちを向いた。 「お〜。頼子〜」と佳苗が手を振る。  佳苗以外にわたしが知った顔はいなかった。初対面の四人はそれぞれの視線をわたしに向けていた。 「こっち空いてるよ〜」と佳苗が手招きしながら自分の隣の座布団をペシペシと叩く。  わたしは「ども」とか「こんばんわ」とか言いながら佳苗の隣に落ち着いた。 「ビール? オリオン生でいいよね」と佳苗はわたしの返答も聞かずにさっさとタブレット端末でビールを注文した。   ビールがテーブルにやってくる時間を利用して、佳苗はわたしを「幽霊会員の頼子〜です」と民研のメンバーに紹介した。  わたしもそれにのっかって、「幽霊の片岡頼子です」と名前だけの簡単な自己紹介をした。                        
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