火のないところに、煙は立たぬ。

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 民研のメンバーは、三年生の木梨真美(きなしまみ)さんと吉井和成(よしいかずなり)さん。新歓の主役、一年生の亀井亮太(かめいりょうた)くんと真田千恵(さなだちえ)ちゃん。そして、我が友、二年生の比嘉佳苗(ひがかなえ)だ。  真美さんは民研の会長で、自己紹介のときに「あなたのおかげ活動費がもらえた」と頭を下げた。  名前を貸しただけなので。と恐縮すると、「それでもこちらは大いに助かった」と今度は和成さんがテーブルに手をついてお礼を言った。  わたしは小っ恥ずかしいくて、アルコール摂取前なのに顔が熱くなった。 「片岡さんは民俗……。特に怖い民間伝承とかに興味はない?」  ビールが来てとりあえずの乾杯を終えた後に、和成さんがそう訊いてきた。  わたしはオカルト的な話しには全く興味はない。  UFOやUMAなんか見たことはないし、存在が確認されても、「へぇ〜。すげ〜」で終わるだろう。幽霊なんかはどうせ枯尾花だ  でも、ホラー小説はけっこう好んで読んでいたりする。スティーブン・キングやスーザン・ヒルの作品はわたしのアパートの本棚にも収まっていた。  余談だが、ホラー映画は苦手だ。いきなり幽霊や殺人鬼が「わぁ!」っと現れるので、ビックリして心臓がもたない。同じ理由で、肝試しやお化け屋敷も苦手だ。  わたしが例えばどんな伝承を調べているのか。と訊ねると、和成さんは嬉々として説明を始めた。  和成さん嬉しいそうな表情を見て、これは話題を間違ったかな。と思ったが、時は既に遅し。だった。  和成さんの話しは『伝承』というよりは『都市伝説』だった。  どこかで聞いたことがあるような、ないような。そんな話しだった。  民研はそんな伝承を調査研究して、そのとなったものを探すのが主な活動内容だそうだ。  それは正直なところ、わたしの興味の範囲外だった。怖い伝承なんて話を聞くだけで十分だ。  怖いものは読んだり聞いたりして、「あ〜怖かった」だけでいい。  わざわざその根本を掘り起こそうなんて思わないし、考えない。だって怖いし。  和成さんの話しを聞いて、「へ〜」とか、「ほ〜」とか頷いてると、何を勘違いしたか真美さんが「興味があるなら現地調査に行かない?」と言い出した。 「この土曜日にとある場所の行くんだけど、一緒にいかが?」  いや。その日はバイトが。と(てい)よく断ろうと思ったら、佳苗が「頼子〜、毎週土曜日はバイト休みだよね〜」と言った。 「じゃあ、一緒に行きましょう。決定ね」  真美さんは嬉しいそうに手を叩いた。それに和成さんや一年生までもがのっかる。  この雰囲気の中で断る勇気は、わたしにはない。  いらんことを口走った佳苗に恨みがましい視線を送るが、佳苗は揚げ出し豆腐をうまうまと頬張ってい全く気付いていなかった。  こうしてわたしの何も予定のない。あえて予定を入れない土曜日に『怖い民間伝承の調査』というイベントがねじ込まれたのである。 ○ ○ ○    
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