火のないところに、煙は立たぬ。

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「暗いな」  ハンドルに身を乗せるようにして、和成さんが呟いた。  車を止めてベッドライトを消すと、かなり暗かった。  目的の場所までは車を停めた位置から、少し歩かなければならない。  だけど、道沿い街灯なんてものはないし、空には雲がかかっていて、月明かりもない。 「……本当に行くんですか?」  千恵ちゃんが不安そうに言う。  すると、真美さんが「懐中電灯は人数分持ってきてるから大丈夫」と助手席のベッドレストを抱いた。  そういう問題ではないと思うのだが、五時間近くかけてはるばるやって来たのだ、民研の会長としては何もせずに帰るわけにもいかないのだろう。  車から出るとジメッとした重い空気か肌に張り付いた。  真美さんの用意した懐中電灯が行き渡ると、和成さんが「さぁ、行こうか」と先頭を歩き始めた。  広い道路を折れて農道に入り、その農道から海に向かって細い道に入る。 「こっち、だったかな」    頼りないセリフとともに和成さんが長く伸びた草を掻き分けて先行する。  遠くでゴロゴロと雷の音が聞こえた。  右目の奥にシクシクとした違和感を感じる。わたしは温い風の中に雨のにおいを感じた。  わたしは足元の悪い歩きながら、ふと今から行こうとする場所にまつわる『伝承』とやらを聞いていないことを思い出した。  それを佳苗に聞くと、佳苗は「え〜っと、どんな〜だったかねぇ〜」と目を泳がせた。  佳苗はなんだか眠たそうな、ボーッとしてた感じだ。ここに着いてからの佳苗はずっと静かだった。  わたしが眠いのか。と問うと、「大丈夫よ〜」といつもの間延びした返事をよこした。  わたしと佳苗がそんなやり取りをしていると、それを見ていた亮太くんがその『伝承』を教えてくれた。 「この奥に貝塚があって、その脇に洞窟があるんですよ。その洞窟というのが霊窟で凄い霊力が溢れているらしいんです。死の世界に繋がっている。とかいう話しもあります。だから霊感のない人間でもその洞窟に近づくだけで霊が見えたり、霊の声が聞こえたりするそうですよ。その洞窟は霊場として霊媒師や祈祷師の修行の場として使われていたそうです」  死の世界に繋がっているってことは、島根の黄泉比良坂や京都の六道の辻みたいなものだろうか。  しばらく歩いていると、大きなガジュマルの樹にボロボロな立て看板が結えられていた。  長い間風雨に晒されていたのだろう。ベニヤ板はバランバランになっていて、ガジュマルに結えられている針金も錆びて千切れていた。 「あの。これって……」 看板を懐中電灯で照らしていた千恵ちゃんが怯えを含んだ声で言った。 ーここは霊場です。これより先に進む場合、命の保証はありません。  立て看板には掠れた赤い文字でそう書かれてあった。 「……信憑性が出てきたわね。これは本物かも!」    真美さんは鼻息を荒くして、スマホで看板とガジュマルの写真を撮った。    
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