火のないところに、煙は立たぬ。

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「あと少しで貝塚だ。そこから浜に降ると洞窟がある」  和成さんは道の先を懐中電灯で照らして歩き出した。みんなもその後に続く。  わたしが看板の前から歩き出す直前、不意に佳苗に手を掴まれた。  佳苗はガジュマルの樹から先に行こうとはせず、立て看板の前から動かなかった。 「真美先輩、もう帰らん?」  佳苗は看板の側に立って、先に進んだ真美に向かって呼びかけた。 「え? ここまで来たのに? 洞窟まであと少しだよ?」 「い〜から、帰ろう!」  突然、「帰ろう」と言い出した佳苗に千恵が眉をひそめる。 「佳苗先輩、ビビってます? あの変な看板見て怖くなっちゃいました?」  亮太が煽るような言い方をするが、佳苗は、「帰ろう」の一点張りだった。 「怖いならお前だけ先に車に戻ってろよ。ほらキーを渡すからさ」  和成が佳苗にキーを差し出したが、佳苗はそれを受け取らずに和成を睨むと、「みんな一緒に、今すぐ帰るからっ!!」と叫んだ。  普段大きな声を出すことのない佳苗の大声に、みんな驚いていた。  佳苗の大声が合図だったかのように、雨粒ポツリ、ポツリと落ちてきた。  遠くに聞こえていた雷の音も近くなってきている。このぶんだとすぐに本降りになるだろう。 「仕方ない。雨も降ってきたし、雨具もないから、今日は帰ろうか」  真美先輩がそう言うと、和成さんも「しゃーないか」と来た道を戻り始めた。  佳苗はみんなが自分の前を通り過ぎるのを待ってから、「行こう」とわたしの手を引いた。  佳苗に手を引かれて歩き出した瞬間、わたしは何かに髪の毛を引っ張られた気がした。  帰り道、佳苗はずっとわたしと手を繋いでいた。  車のところまで戻って来ると、いよいよ雨が強くなって来た。 「降ってきた!」と和成さんが車のロックを解除したとき、「乗るのちょっと待って」と佳苗が制止した。  佳苗はわたしに「マース貸して」と鞄についているマース御守りを外すと、巾着袋から塩を掌に出して、ひとつまみずつみんなの頭に振りかけた。  そして最後に自分の頭にも塩をかける。 「はい。もう車に乗っても大丈夫よ〜」  いつもの間延びした口調に戻った佳苗にわたしは少しホッとした。  わたしは車に乗ってから佳苗にどうして自分のマースを使わなかったのか訊ねた。  佳苗もユタから貰ったというマース御守りを持っていたはずだ。 「あのマースね、使えんくなった」  そう言って佳苗は自分の御守りをわたしに見せた。  佳那なマース御守りは真ん中くらいから破れていた。  それは枝に引っ掛けたとか、そういう破れ方ではやく、内側から破裂したような。そんな破れ方だった。 「それ、どうしたの?」 「明るい場所に行ったら話すさ〜ね」    佳苗はそう言うと、和成さんに国道沿いにあるファミレスに寄ってくれと頼んだ。  お昼を食べてから何もお腹に入れていなかったので、ちょうどいい。とみんな賛成した。  
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