19人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「あと少しで貝塚だ。そこから浜に降ると洞窟がある」
和成さんは道の先を懐中電灯で照らして歩き出した。みんなもその後に続く。
わたしが看板の前から歩き出す直前、不意に佳苗に手を掴まれた。
佳苗はガジュマルの樹から先に行こうとはせず、立て看板の前から動かなかった。
「真美先輩、もう帰らん?」
佳苗は看板の側に立って、先に進んだ真美に向かって呼びかけた。
「え? ここまで来たのに? 洞窟まであと少しだよ?」
「い〜から、帰ろう!」
突然、「帰ろう」と言い出した佳苗に千恵が眉をひそめる。
「佳苗先輩、ビビってます? あの変な看板見て怖くなっちゃいました?」
亮太が煽るような言い方をするが、佳苗は、「帰ろう」の一点張りだった。
「怖いならお前だけ先に車に戻ってろよ。ほらキーを渡すからさ」
和成が佳苗にキーを差し出したが、佳苗はそれを受け取らずに和成を睨むと、「みんな一緒に、今すぐ帰るからっ!!」と叫んだ。
普段大きな声を出すことのない佳苗の大声に、みんな驚いていた。
佳苗の大声が合図だったかのように、雨粒ポツリ、ポツリと落ちてきた。
遠くに聞こえていた雷の音も近くなってきている。このぶんだとすぐに本降りになるだろう。
「仕方ない。雨も降ってきたし、雨具もないから、今日は帰ろうか」
真美先輩がそう言うと、和成さんも「しゃーないか」と来た道を戻り始めた。
佳苗はみんなが自分の前を通り過ぎるのを待ってから、「行こう」とわたしの手を引いた。
佳苗に手を引かれて歩き出した瞬間、わたしは何かに髪の毛を引っ張られた気がした。
帰り道、佳苗はずっとわたしと手を繋いでいた。
車のところまで戻って来ると、いよいよ雨が強くなって来た。
「降ってきた!」と和成さんが車のロックを解除したとき、「乗るのちょっと待って」と佳苗が制止した。
佳苗はわたしに「マース貸して」と鞄についているマース御守りを外すと、巾着袋から塩を掌に出して、ひとつまみずつみんなの頭に振りかけた。
そして最後に自分の頭にも塩をかける。
「はい。もう車に乗っても大丈夫よ〜」
いつもの間延びした口調に戻った佳苗にわたしは少しホッとした。
わたしは車に乗ってから佳苗にどうして自分のマースを使わなかったのか訊ねた。
佳苗もユタから貰ったというマース御守りを持っていたはずだ。
「あのマースね、使えんくなった」
そう言って佳苗は自分の御守りをわたしに見せた。
佳那なマース御守りは真ん中くらいから破れていた。
それは枝に引っ掛けたとか、そういう破れ方ではやく、内側から破裂したような。そんな破れ方だった。
「それ、どうしたの?」
「明るい場所に行ったら話すさ〜ね」
佳苗はそう言うと、和成さんに国道沿いにあるファミレスに寄ってくれと頼んだ。
お昼を食べてから何もお腹に入れていなかったので、ちょうどいい。とみんな賛成した。
最初のコメントを投稿しよう!