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<29・かくて刃は振り下ろされる>
何も、言うことができなかった。
コウジはただ、ただ黙って事切れている蒼生を見下ろすことしかできない。自分達が異世界転移してきて、まだ四か月かそこらであるはず。ならば、あり得ない話ではなかった。三か月や四か月でなら、妊婦の腹がまったく目立たなくても当然と言えば当然なのだから。
――そういや、聴いたこと、あるかもしれね。
エロゲやAVでは当然のように避妊なんて度外視で行為を行っているが。確かどこかで見たことがあった気がするのだ。通常の妊娠確率は、一回につき25%程度である、と。それが本当なら、一回で妊娠する可能性はけして低いものではない。ましてや、最初の夜自分は童貞卒業にはしゃいでいた上、自分を“馬鹿にしていた”と信じていた相手を組み伏せるのに心底興奮していた。確か、一晩で何回も何回も行為を繰り返したような気がするのだ。十分、確率的には有り得た話である。
蒼生がもし本当に妊娠していたのなら、最近の不調にも納得がいくだろう。
そして同時に、三か月や四か月で母体が死んでしまった場合、子供がどうなるかなんて言うまでもないことである。当然もう、そのお腹の子は、仮に今まだかろうじて生きていたところで――。
「……そういうことが起きる可能性、まったく考えなかったの?」
小夏の声は、冷たい。
「蒼生君のことだけじゃない。私はともかく……あんたはあっちでもこっちでも、好き勝手に町の人を能力で洗脳して、性行為を強要してたんでしょ。蒼生君みたいに、男性から女性に変えられちゃった人もたくさんいたんでしょ。普通の女の子が無理やりされるだけで怖くて悲しくて死にたくなるのに……私だって本番がなくてもすごく怖かったくらいなのに!本当は男の子の蒼生君がどれほど傷ついてたか、怖かったか、あんたは全然考えなかったんでしょ!?」
「お、俺は……」
「どうせ、エロゲでもやってる気分だったんじゃないの?だから妊娠してもいいや、それはそれでエロいからいいやとか思ってたんじゃないの?子供を産むのがどれくらい痛くて負担になるかも考えずに、産まれたあとどうするかも考えずに!それともなに?邪魔になるからさっさと堕ろさせればいいとでも思ってた!?」
「そ、それは……」
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