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はっきり言って。堕胎だとか、そんなことさえ考えていなかったというのが本当のところである。よく、エロ小説とかでは“孕ませてぇ!”なんて女の子は目をハートマークにしながら言うのが鉄板だ。えっちで最高にオカズにできるし、妊婦プレイもそれはそれでアリだなと思ったことはある。だが、それらはあくまで、現実ではないから想像できたこと。実際に自分が男としてその状況に接した時――相手を奴隷にして組み伏せる方法として性行為を想定しただけで、実際に妊娠したらなんて考えたこともなかったのである。
父親になるかもしれないなんて。好きでもない女に対して責任を取るだなんて、想像したことさえない。むしろ、どこかで“ファンタジーな世界だから、妊娠だの性病だのなんてことは無関係に楽しんでOKだろ”という認識が働いていたことも否定できなかった。目の前にいるのは本物の、生きている現実の人間で。ここは異世界とはいえ、そこで生きている人間の意思は現代日本のそれとなんら変わらないものだったはずなのに。
「それだけじゃない。蒼生君は……自分の能力の代償が、何であるか薄々気づいてた」
涙をぽろぽろと零しながら、小夏は訴える。
「悪阻とは明らかに違う、体調不良が出てたの。それは、あんたの能力を撥ねつけるたび重くなっていった。蒼生君はあんたに必死で隠してたけど、最近は夜になるとしょっちゅう血を吐いてたんだよ。多分、蒼生君の能力の代償は……寿命」
「それ、って……」
「蒼生君は、無理やり妊娠させられて、しかもその子を道連れに死ななくちゃいけないことにずっと苦しんでた。……あんたが!あんたが蒼生君に奴隷の能力なんかかけなかったら、こんなことにはならなかったのに!!」
「あ……あ、ぁ」
ふらふらと、コウジは蒼生の傍に座り込んだ。血の気が失せて真っ白になった顔で、蒼生は人形のように横たわっている。マイヤや他の異世界転移者達と比べて明らかに穏やかな顔をしていたし、美しい姿のままではあった。でも。
「ふざ、けんなよ。……なんで、そんな大事なこと、全部……隠してんだよ、俺に」
震える指が、頬に触れる。
既に温もりは失われつつあった。死んでいる。誰がどう見ても、もう蒼生は。
「ふざけんな!それ、それ真っ先に言うべきは俺にだろ!?なんで、なんで小夏には言って俺には言わねえんだよ、ざけんじゃねえぞ、何黙って死んでやがるんだよ!!」
実感した途端、感情が思いきり溢れ出た。頭を掻きむしり、呻く。
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