<29・かくて刃は振り下ろされる>

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 この馬鹿は、最後まで馬鹿のままだった。  負い目があったから、自分の能力に抵抗できなかった?この世界で友達になるために、自分を連れてこようとしていた?自分の子を妊娠していた?そして能力の解除を試みるたび、命を削っていたなんて、そんな。 「いい加減にしろよ、いつもいつも言うべきことちっとも何も言わねえで!人を許せねえと思うなら、もっと罵ったらどうだ!?いい人ぶってねえで、恨み言の一つくらい言えば良かっただろうが!なんで、なんで全部抱えたまま死ぬんだよ、何も俺にぶつけてこねえんだよ!それで、友達になりたかったとか、そんな、そんなのっ」 『違う、俺は……俺は誰にも不幸になってほしくないだけだ。遠藤さんにも、お前にも』 『では訊くけれど。君はこの世界で、彼に何をしたのかな。そしてその上で……彼は一度でも、君を殺そうとしたり、傷つけようとしたことはあったかい?』 『そうだな。……結局、自分の価値を決めて、上げて、変えていけるのも自分自身だけなんだ。自分が死んで悲しんでくれる人を増やしたいなら……自分で自分の価値を上げるしかない。その価値で、誰かに愛されることをしないといけない。そして愛されるためには、愛するしかないんだ』  何で、あんなことが彼は言えたのだろう。  友達になりたいと願った相手に何度も何度もはねつけられて、挙句助けたかったはずの相手に女に変えられて強姦されて身籠って、その相手の能力を防ぐために命さえ削って。  自分とくだらない、冗談じみたやり取りをした時にはもう、彼は運命を全て悟っていたはずである。それなのに。 『俺だって男だ……今は女の体だけど趣味趣向は変わらないぞ。あと、指が綺麗な子はどきっとする』  わからない。  理解できない。  何故あんな風に笑えたのか、彼は。自分をそこまで苦しめた相手に向かって何故、最後まで手を差し伸べるようなことが言えたのか。 「わかんねえ、よ」  目の前の景色が、滲んでいく。生まれて初めてかもしれない。誰かのためにここまで悲しくなったのは。これほどまでに、己がしたことを後悔したのは。 「お前が、何考えてたのか、全然わかんねえよ……!なんで、なんでだよ、なんでだ、なんで、なんで、なんでだあああああ!」  確かなことは一つ。  自分はたった今――生まれて初めてできたであろう、そしてきっと一生モノになれたであろう“友達”を、永遠に失ったのである。
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