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「おめでとうございます、遠藤小夏。貴女は見事、この異世界の試練を突破されました。約束通り、元の世界に帰して差し上げましょう」
メガミサマ。コウジはそう呼んでいたが、そこに立っていたのは誰がどう見ても“神様”なんて存在から程遠い、一人の科学者だった。黒いボブヘアーに眼鏡、いかにも真面目などこぞの研究者と言わんばかりの姿をした妙齢の女性。賛辞を述べておきながら、その表情はまるで人形のように動きがなく、不気味だった。
「……本当に、私達の事は全部……実験だったのね」
ああ、なんて滑稽な。
わかっていても、静かな衝撃が巡る。自分達は所詮、彼女等の実験動物に過ぎなかったのだ、と。
「……チート能力の実験でもしてたってわけ?私達を使って」
「大体そんなところです。貴女が狭霧煉から聞いた通りですね」
「……私達が交わした会話も全部、知ってるってわけ」
「ええ、全て記録に取っていましたから」
「…………」
本当に、相手のことなどどうとも思っていないような顔だと感じた。もし彼女に少しでも小夏たちを思いやる気持ちがあるのなら、ここまで事務的かつ無感動な対応はできないだろう。ましてや小夏が――景色と一緒に消えてしまったとはいえ、蒼生を看取ったことも、小夏がコウジを刺して返り血塗れになっている現状も見ているなら尚更である。
尤も、そんな人間らしい心が少しでもあるのなら、こんな非人道的な実験など考え付きもしないのだろうが。
「何で、こんな実験をしたの」
全ての元凶。ある意味コウジ以上に憎たらしい相手のはずだった。それなのに今、憎悪や殺意をひたすらコウジに浴びせた後では――何もかも空しくて、女に掴みかかる気力さえ湧かないのは何故だろう。
「死んだ、蒼生君たちは……どうなるの」
「そうですね。実験にご協力いただき、かつ生きて元の世界に帰る権利を得られた方には……異世界転移希望者であれその同行者であれ、全てをお話することにしています。貴女には、知る権利があるでしょう。とはいえ、必要なのは狭霧煉が話していない部分のみでしょうが」
女が手を翳すと、ふわりと彼女の手元に映像が浮かび上がる。ホログラムだろうか。いかにも近未来的だ、と小夏はぼんやりと思った。
「結論から言えば、私達は貴女方よりも遥かに優れた異世界の人間です。技術的に言えば、貴女の世界の数百年後に相当する科学力を持っていると考えて頂ければおおよそ間違いないでしょう。未来人のようなもの、そう思って頂いても結構です」
「未来、人……」
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