<30・浄罪の時>

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「私達の世界では、多くの争いが起きています。特に、近年は己を実験台にし、特殊な能力を植え付けることによって好き勝手に暴れる輩が増えました。毎年、暴動や紛争によって数多の尊い命が失われていく始末……これを、政府はゆゆしき問題と判断。粛清に乗り出しました。その粛清とは、暴動を起こした輩を処罰することのみならず……人々が愚かな発想を持たぬよう、その思想をコントロールすることも含んでいます。そのために政府は知る必要がありました。人は欲望を、どのような能力によって発散しようと考えるのか……そこに至る思想とは何か?争いがないセカイを作るために、どのような思想統制を行うのが正しいのか?」  四角い画面のようなホログラムの中では、半分機械化した人間が手を翳し、次から次へとレーザーのようなもので虐殺を行う様が映し出されていた。まるでディストピア系の映画でも見ているかのよう。サイボーグたちが笑いながら人を殺していく。レーザー以外にも、頭に手を翳すことで人々の脳を破裂させていく人間、泣き叫ぶ人々、政府の人間達のオンライン会議の風景など。  人間は、どの世界でもどの時代でも醜いのだと、思わずそう断じたくなるほど凄惨な光景だった。散々、惨い景色を見たあとの小夏にとっては、リアルに目の前で見せつけられたものより遥かにマシなものであったけれど。 「私達はそれらを知るため、箱庭を作りました。そして、私達の世界と直接繋がらない……影響の出ない異世界を利用することにしたのです。希望者を募り、箱庭の世界を“異世界”と称して、そこに異世界人たちを送り込んで観察することにしました。その時、本人が望む異能力を与えて」 「特殊能力を使う輩の傾向を調べるため……?」 「その通り。どのような能力を望み、どのような能力の使い方をするのか?……ですが、我々の技術をもってしても、“デメリットなし”で能力を付与することは不可能です。人の身に余る能力を与えるためには、どこかに莫大な負荷をかけねばなりません。寿命だったり、若さであったり、あるいは幸運であったり。……代償を伏せたのも観察です。我々の言動だけで代償に気づくことができる人間がいるかどうか?異能力を使いこなし、代償に気づいてなお善行に走ることのできる人間がいるのなら、我々の研究機関にスカウトすることも考えていました。狭霧煉や姫島小夏は候補でしたが……非常に残念です」 「……残念って。死ぬって、こと?」
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