<30・浄罪の時>

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「勿論。この箱庭も、現実の世界に違いありません。死んだら元に戻ることは不可能です。ドラゴンを倒して無事私の前に立つことができた人間が生きていれば、その傷を治して、元の世界に帰すことも可能ではありますが……死んだ人間を完全に蘇らせることは、我々の世界であってもタブーなのです」  ああ、本当に簡単に言ってくれる。小夏は唇を噛み締めた。  タブー、とうことは。禁じられているが、できなくはないということ。それでもやらないのは、完全にあちらの都合ではないか。自分達の勝手で小夏たちを箱庭に召喚し、好き勝手に運命を弄んでおきながら。 「ご安心を。貴女はそのまま、元来た世界の元いた時間に帰ることができます。ただし、貴女の亡くなったクラスメートや教師は、そのまま事故死や病死といった偽装工作を取らせていただきますが」  勝手なことを言ってくれる。そこまで出来るくせに、謝罪の言葉の一つもないとは。できるのに、しない。そこまで労力を払う義理がない。あまりにもあけすけなその言い様に、いっそ笑えてきそうなほどである。  なんとなく、察した。  この研究員も既に、“思考統制”がされ、余計な罪悪感や情を持たないように操作されているのかもしれないと。ならばいくら、小夏が感情に任せて叫んだところで意味など無い。常識が一切通じないサイコパスと、まともに交わせる言葉などないのと同じことだ。  彼女は、否彼女等は。自分達とは違う常識で、生きている。なんて空しい真実だろう。小夏には、これからも行われるであろう無惨な実験を止める術もないのだ。狭霧はそれでも自分なりの常識で足掻いて、立ち向かおうとしていたようだが。 「……死んだ人間の魂は、どうなるの?転生するの?それこそ、アニメとかゲームみたいにさ」  だから、それを尋ねたのは、ほんの気まぐれのようなもの。 「もし、そうなら。……あんたらのワガママに巻き込まれた、私の願い。一つくらい、叶えてくれてもいいと思わない?」  どうせ、自分もこの傷を抱えては、ろくな人生など歩めやしないのだろうから。せめてたった一つだけ、希望のようなものを希ってもいいのではないか。  愛しいあの人の来世に、彼が望む幸福を。それが与えられる世界を。  小夏の声に、“メガミサマ”は少し考えた後、こう告げたのだ。 「内容次第では、検討しましょう。遠藤小夏、貴女は何を望みますか?」
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