<1・化け物が嗤う>

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 ***  大久保コウジ。性別男、高校一年生。身長160cm、体重98kg。成績は留年スレスレ、万年帰宅部、運動神経ゼロ。まあこのパーソナルデータだけで想像がつくだろう。いわゆるコウジという存在が、この世界において既に“負け組”と呼ばれる人間であったということは。  太りやすい体質な上、身長も大して伸びず。おまけに顔面も、両親に似て残念と来ている。それでも成績や運動神経があれば話は違っていたかもしれないが、コウジにはどちらも恵まれた才能は持ち合わせていなかった。勿論、デブだろうとブサイクだろうと社交的な性格ならば、愛されるキャラクターとしての地位を確立することができたかもしれない。だが、悲しいかなコウジにはそんな人並み程度のコミュニケーション能力も存在してはいなかったのである。  劣等感と嫉妬、人一倍コンプレックスの塊であったがゆえに。  特に、同性嫌悪の感情は凄まじいものがあった。何故どこに行っても、クラスには“イケメン”とか“人気者”と呼ばれる類の少年がいるのだろう。高い身長や、すっきりと整った顔、甘い声やら運動神経やら頭の良さやら。コウジが持っていないあらゆる要素を持っている少年たちがあまりにも忌々しく、そのたびにコウジは己のストレスを発散させる方法を探さなければいけなかったのである。  彼等に手を差し伸べられることもあったが、それはコウジにとって侮辱以外の何物でもなかった。  彼等のような存在は目の前から抹殺するか、惨めな姿をさらしてやらなければ自分の安寧は保たれない。そう信じて、コウジは少年たちに嫌がらせをしたり、悪口をひたすら掲示板に書き込むような真似を繰り返した。――そんなことをすれば、結果がどうなるかなど目に見えている。心優しく“見える”、イケメン“っぽい外見の”、ムカつくほど“運動神経がよさそう”な彼等の方に誰もが味方をするというものだ。どれほどコウジが己の不遇を訴えても、コウジが正しいことをしていても、孤立するのはいつだってこちらの方だった。――そして、高校に入る頃にはもう、己のカーストは明白なほどに確定していたというわけである。  誰もが自分を、空気のように扱った。  コウジを無視し、関わらないようにして距離を取り、ひそひそと悪口を言うのが当たり前になっていたのである。 ――ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!  クラスのイケメン達の蔑んだ目。  クラスの美少女達のゴミを見るような目。  妄想の中、コウジはいつもイケメン達をタコ殴りにし、美少女達を犯して悦に浸った。現実ではそれが実行できない、その不遇が忌々しくてたまらなかった。自分はこんなに苦しんで悩んでいるのに、誰もそれを理解してくれない。その苦しみに見合う喜びを与えてくれる神様もいない。  ゆえに。 ――こんな世界、俺の居場所なんかじゃねえ。  コウジが、異世界転移を決意するのに躊躇いはなかった。 ――夢と魔法に溢れた、俺様がチート無双できる世界に連れていってくれ!こんなクズみたいな世界、もうこりごりなんだ!
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