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<2・ようこそ、異世界へ>
話は、コウジが蒼生、小夏の二人と異世界転移してきた直後まで遡る。
目が覚めた時、コウジ達がいたのはどこかの丘の上だった。現世で言うところの欅のような大きな木が一本あり、その根元に三人そろって倒れていた形である。
「お、おお……!?」
一番最初に起きたのはコウジだった。思わず声を上げて周囲を確認する。現在目に見える景色だけでは、到底此処が異世界だと確証づけるものはなかった。ただ、自分は自室のパソコンの前に座っていたはずということ、屋外に出た記憶など一切ないことは確かなことである。
少し大樹から離れて空を見れば、此処が外であることは間違いなく、しかも空には曇天が広がっていた。メールを受信したのは夜。この明るさなら、まだあって夕方といったところだろう。時間も異なっている。やはり、異世界転移したと思っていいのだろうか。
――げ、ゲームの通りなら、メガミサマとかが現れて説明をよこしてくれるはずだが……そういうのはねえのか?
自分でも挙動不審になっていた、と思う。能力と同時に、もう一つ早々に確認したいことがあった。自分の外見である。太っていてチビ、吹き出物だらけの肌に不細工な顔――そういうものとおさらばしたくて、この異世界転移を希望したというのもあるのだ。どこかに鏡か何か、己の顔を確認できるものはないだろうか。そこでまだ倒れている蒼生を上回る美青年になりたいだなんて思っていない(というか、あまりにも美形すぎるとそれはそれでムカつくのだ。たとえそれが自分であっても関係なく)。周囲をふらふら歩きまわった結果、すぐ近くに小さなため池があることに気づいた。
ひょっとしたら本来は池というほどの規模ではなく、本当にたまたま雨水が溜まった程度のものであったのかもしれない。何であれ関係がなかった。今自分が求めているのは飲み水ではなく、自分の顔を確認する手段なのだから。
「!……よっ」
よっしゃあ、とガッツポーズをしかけてギリギリのところで堪えた。まだ二人が寝ている。大声を出したら起こしてしまうだろう。眠っている間にイタズラしてやりたい身としては、まだ起こすのは癪だった。どうせなら、眠っている間に性奴隷として教育してやってもいい。年齢を偽って登録した成人向けサイトで、エロ小説も山ほど読んだことのあるコウジだ。睡眠姦、もなかなかオツなものである。
――い、いいぞ!いいぞ!
水面に映った己の顔は、完全に別人だった。丸くてぶよぶよしていた顔はしゅっとしており、少なくともフツメン以上の顔面偏差値は保たれている。少し眉がふとましい印象だが、男らしい顔立ちだと思えば悪くはない。体つきもそこそこがっしりしているし、比較対象がないからなんともいえないが身長も伸びてそうだ。
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