<2・ようこそ、異世界へ>

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 使い過ぎることのないように?何を言ってるんだこいつ、とコウジは鼻で笑った。どんな奴でも自分の雌奴隷にできる能力、を与えておいてセーブしろなんて滑稽だ。矛盾している。まあ、まだその威力を試すことには成功していないわけだが。 『今回この世界にお招きした、現代日本の“異世界転移希望者”は百十五名。うち四十二名は、希望者が望んだ“同行者”です。この異世界で、皆様は思うがまま好きなように生きてくださって結構。元の世界に帰る方法もあります。この世界にはびこっている“問題”を解決することです』 「問題だ?」 『この世界は現在、モンスターの異常発生に苦しんでおります。その元凶は、この世界の中心に位置する塔……“黒の巨塔”にいる闇のドラゴンの封印が解けたこと。闇のドラゴンを討伐していただければ、皆さんを元の世界に帰して差し上げます。この世界で生きることに飽きたら、是非お試しになってください。それでは、健闘をお祈りします』 「お、おい」  チート能力に関する説明は一切なしか!と憤慨したが。よくよく聞けば今のアナウンスは、自分一人に向けられたものではない。個別の説明でもない限り、解説は難しいということなのかもしれなかった。 ――チート能力を使いたい!と願って手でも翳せばいいってか?  とりあえず、異世界転移に成功したことは間違いないようだ。適当な相手に試してみてから考えよう。闇のドラゴンを倒せば元の世界に帰れる、とのことだが今はその方法を考える必要もなさそうだ。現世に未練などない。せっかく望んだ容姿と能力を得たのだ、この世界で一生を終える方がずっと楽しそうである。 「ね、ねえ」 「あ?」  後ろから声をかけられ、振り返る。見れば目を覚ました様子の小夏が、真っ青な顔で佇んでいた。その背中を、それとなく蒼生が支えているのが忌々しい。 「い、異世界転移って、どういうこと?それに……それにあんた、大久保、なの?クラスの、大久保コウジ?」  それは、初めて小夏が自分に見せる目だった。嫌悪と、それ以上に明らかな恐怖。湧き上がる優越感と加虐心に、口の端が自然と持ち上がる。  まだ能力がかかっていない、来たばかりの彼女は気づいていない。自分は親切だ。ちゃんと教えてやらねばなるまい。 「そうだ、俺が大久保コウジだ。お前らが、ずっと見下して、馬鹿にして、いじめて来た……な!」  さあ、自分の、自分による、自分の為の祭の始まりだ。 「お前らは今日から、俺の奴隷なんだよぉ!」
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