不老不死世界

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20XX年8月3日 結局、俺は治験の説明会に参加してみることにした。 説明会の当日、この日はとても蒸し暑かった。半袖Tシャツに、短パンとサンダル。こんなラフで良いのかと多少の不安もあったが、この夏の蒸し暑さが俺をこうさせた。説明会が開かれる会場は都心から少し離れた田舎の方だった。その為、電車から見える風景が少しずつ緑がかっていった。乗客もだんだん少なくなっていく。電車の窓からさしこむ陽射し、規則的な電車の走行音、冷房の効いた車内。この絶妙な状況は、俺を何とも言えない感情で包み込んだ。 「閉まるドアにご注意ください。」 電車のアナウンスに目を覚ます。窓から見えた駅の名前は、俺が降りるべき場所だった。ハッとして降りようとしたときには電車は既に動き出しており、俺は静かに座り直した。次の駅に到着し、反対方向のプラットフォームへと向かう。次の電車が来るのは20分後だ。誰もいないプラットフォームで1人ベンチに座る。この田舎の夏の雰囲気は、俺をまた感傷的にさせたが、この蒸し暑さが2度目の居眠りには導かないだろう。セミの鳴き声を聴きながら、昔叔母の家の近くで両親と虫取りをした微かな記憶を思い出していた。記憶とは、まあ、非常に美化されるもので、俺の記憶はもはや事実から既にかけ離れているのかもしれないが、その記憶は美しくて... 俺は泣いていた。泣くといっても涙が数滴たれるくらいだ。この涙も夏の暑さがすぐに蒸発させてしまう。電車の到着アナウンスがされ、俺は立ち上がった。
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