DNA

1/1
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/390ページ

DNA

同じ両親のDNAを受けているのに、その子供達は、性格や見た目がそっくりになるわけではない。 知能や体力面でも、違いはある。 僕達の両親は、極めて普通の人達だ。 二人とも、特に綺麗でもなければ不細工ということもなく、体格もごく普通、知能もごく普通。 まるで、日本人の平均を具現化したような両親なんだ。 父はサラリーマン、母はスーパーのパートをしている。 家は、持ち家とはいえ、小さな建て売り住宅。 本当に、絵に描いたような平凡な家庭だ。 なのに、長女の麻美はとても優しく、そのくせしっかりした性格で、学生の頃から看護師を目指し、あっさりとその夢を叶えた。 今は、ある病院で看護師として毎日忙しく働いている。 どういうわけだか、姉は容姿に恵まれ「美し過ぎる看護師」としてSNSで拡散され、「日本一有名な看護師」となってしまった。 長男の健人は、ボクサーだ。 小さい頃、体が弱かったせいか、中学あたりから彼は体を鍛えることに目覚めた。 早朝から走り、トレーニングマシーンを買い、毎日地道に運動を続けていた。 高校になると、ボクシング部に入り、彼はめきめきと頭角を現し、今や、ミドル級の世界チャンピオンだ。 平凡な両親から生まれたにしては、出来過ぎた子供達だ。 性格も容姿も、どちらにも似ていない。 まさか、赤ん坊の時に、産院で取り違えられたんじゃないだろうな。 そんなことを考えてしまう程、両親とは違っている。 だけど、僕は、どこから見ても両親の子供だ。 見た目も知能も体力も、極めて平均的。 特に秀でているものはなにもない。 ごく普通の大学を出て、ごく普通の会社に勤め、人望が厚いわけでもなければ、嫌われているわけでもない。 けれど、ひとつだけ、僕は姉や兄に勝っているものがある。 それは、博士(ひろし)という名前だ。 なぜ、僕みたいな平凡な男にこんな名前を付けたのだろう? 両親は、僕に博士(はかせ)にでもなって欲しかったのだろうか? 確かに、小学生の頃は中村博士と呼ばれていた。 だけど、この先も僕が本当の博士になることはないだろう。 両親は、僕に夢を託していたのだろうか? 平凡な自分たちには叶うはずのない壮大な夢を。 だけど、残念ながら、僕は博士にはなれそうにない。 ごく平凡な両親に似合った、ごく平凡な人間だ。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!