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いらっしゃいませ!
「ついに来たな!」
「頑張るっきゃないね!」
俺達は、顔を見合せて頷いた。
*
「ええ~っ!マジ?」
「そんな所でやって行けるの?」
周りの者達はほぼ皆が反対した。
それもそのはず。
俺達夫婦は、昔から街育ちだというのに、突然、山奥の小さな町に引っ越すと言い始めたのだから。
しかも、そこで、カレーカフェを始めると言ったのだから。
確かに、俺達は、以前から田舎暮しに憧れていた。
都会は便利だけど、便利さだけがすべてじゃない。
俺達は、自然に囲まれた所でシンプルに暮らしたいと思ったんだ。
ただ、それはもう少し先の話だと思っていたのだけど、ネットで俺達の理想にピッタリな場所をみつけてしまったんだ。
これを逃したら、きっと後悔する。
そう思い、俺達はその物件を見に行った。
即決だった。
あまりに理想的なその物件をおさえ、俺達は街を捨て、そこに引っ越した。
かなり広い家だから、家の一部をカフェにすることにした。
俺達は、二人ともカレーにこだわりがあったから、カレーカフェというコンセプトにすることにした。
店を開店させるにあたっては、いろいろと大変なこともあったけど、夢を叶えるためなんだから、辛いと思うことさえなかった。
「結局、店の名前はどうするんだよ?」
「難しいよね。」
たくさん候補を出して、何日も考えてるのに、店名がまだ決まらない。
もうじき開店だっていうのに、困ったもんだ。
なのに、次の日、店名が唐突に決まったのだ。
それは、俺の見た夢のおかげだ。
天狗がカレーを食べに来て、うまい、うまいと何杯もおかわりをする夢を見たんだ。
ここは、天狗山と呼ばれる山の麓だ。
これは、吉夢に違いない!
そう思い、店名は「天狗」に決まった。
*
「さぁ、そろそろ開店するぞ!」
店の前には、並んでる人が数人いる。
今日から一週間は、カレートッピングの温泉たまごとドリンクがおまけだ。
「いらっしゃいませ~
お好きなお席にどうぞ。」
中年以上のお客さんがほとんどだ。
どうか、この店が繁盛しますように、と、俺は心の中で天狗に祈った。
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