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穏やかな語り部
ほどよい木漏れ日が気持ちいい森の中に、小さな家がある。まるで童話から持ってきたような木造の家で、外壁は白、屋根は可愛らしい赤で塗られている。
外の物干し竿には真っ白なシーツが揺れ、その隣にはこじんまりとした畑と花壇がある。小さな理想郷だ。
日差しが入る窓を覗くと、瑠璃色の瞳が美しい黒髪の青年が、微笑を浮かべながら読書を楽しんでいる。青年の名はソティラス。中性的で穏やかな顔立ちのこの青年は、長い間この森に住んでいる。
ロッキングチェアに揺られながら本を読んでいると、足音が聞こえてきた。
「おや……?」
顔を上げて窓の外を見ると、ひとりの少女がにこにこしながらソティラスの家に向かって走ってきている。
「困った子……」
そう言いながらも、ソティラスは嬉しそうな顔をして本を閉じ、玄関に行く。玄関を開けると、玄関を開けようとした少女が勢いあまってソティラスの胸に飛び込む形となった。
「うわっ!?」
「まったく、相変わらずおてんばですね。ルーチェ、もう少し落ち着いて行動しなさい。いくつですか?」
「えへへ、15!」
ルーチェは無邪気に笑い、片手で人差し指を立て、もう片手をめいいっぱい広げた。
「15歳ならもう少しお淑やかにしたらどうですか? あと1年もすれば結婚できる年齢でしょう?」
「結婚なんてしないもん! 私はいろんな物語を求めて旅をするのが夢なんだから」
そう言ってルーチェは無い胸を張った。
「はいはい、そうでしたね。ここで立ち話をしているのもなんですから、どうぞ中へ」
「お邪魔しまーす」
ソティラスはキッチンへ行き、ルーチェはロッキングチェアの向かいに置いてあるひとり掛けのソファに座った。このソファはルーチェの特等席になっている。
ソティラスはハーブティを淹れると、午前中に作っておいたクッキーと一緒に持っていく。ソティラスの手元を見た瞬間、ルーチェは目を輝かせる。
「わぁい、ソティラスのクッキー!」
「そろそろ来る頃かと思って、焼いてみました」
目の前にクッキーを置くと、ルーチェはさっそくクッキーをかじって笑顔の花を咲かせる。
「うーん、ソティラスのクッキーは世界一だねっ!」
「そう言っていただけて光栄です。さて、今日はどのような物語をご所望で?」
ハーブティーを飲みながら壁という壁を埋め尽くす本棚に目を這わせていると、ルーチェはニィっと口角をあげた。
「あの本がいいな」
ルーチェの言葉に、ティーカップを置こうとしたソティラスの手が止まる。ルーチェの言う”あの本”とは、世間では禁書とされているものだ。その禁書を彼女に読ませていいのか、少し戸惑う。
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