紫戦争

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「フリッシュが真人間だった頃、甥がいたんだよ。歳の離れた兄貴の子供がな。ティミドっていって、気の弱いガキだ。生きてりゃソティラスくらいだったろうな」 「ってことは、ティミドは死んだのか?」  仲間の問いに、イディオは大きく頷いた。瞬間、彼らはざわめく。 「ティミドも、フリッシュの兄貴も嫁も、皆盗賊に殺された。それ以来、フリッシュは汚れ仕事を積極的に引き受けるようになったんだ」 「フリッシュは……、自分の子供みてぇにティミドを可愛がってたんだ……」  ずっと黙っていたトントが付け足した。 「なんつーか、やるせないな……」 「まさか、あのフリッシュにそんな過去があったなんてな……」  数秒の沈黙を、誰かが手を叩いて破った。 「よし、全力でソティラスを探すぞ!」 「おう!」  仲間達は拳を突き上げると、ソティラスを探しに散っていった。その場に残っているのは、イディオとトントのふたりだけ。 「ったく、単純な奴ら」 「お前もだろ、イディオ。素直じゃねーな」 「るっせ」  イディオはライフルを杖代わりにして立つと、トントの腹筋を軽く叩いてその場を離れていく。トントは苦笑しながら華奢な背中を見ると、イディオとは逆方向に走っていった。  明け方、アストゥトはカエルレウスの野営場に集まる。テントの中にあった食糧を食べながら、それぞれがソティラス探索の結果を報告する。フリッシュが望んだ返答は無く、ソティラスの生死すら分からない状態だ。 「クソッ、ソティラスの奴、どこに行ったんだ……」  フリッシュは酒を煽ると、膝に拳を叩きつけた。仲間達は何か言いたそうに目配せをすると、イディオを小突いた。  イディオは盛大なため息をつくと、フリッシュの前に座る。 「なぁ、フリッシュ。ソティラスのことはまた探す。けど、その前に悪魔がどうっていう話、聞かせてくれないか? 俺は、この戦争で合計4回死んだ。他の奴も、何回も死んだ。悪魔から永遠の命をもらった、なんて言葉だけじゃ納得できねーんだ」 「あ? あー……。そういや、そうだったな……」  フリッシュは面倒くさそうに言うと葉巻を咥え、背中を刺された後に何があったのかを語り出した。
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