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臙脂色の時代
アストゥトが両国の兵士を抹殺した翌朝、ベルメリオの城内は騒然としていた。戦場の偵察を命じられていた見回り兵が、アヴィド国王の部屋のドアを乱雑に明けた。その音で起きてしまった国王は、枕元にあった短剣に手を伸ばす。
「アヴィド陛下、大変です! 両国の兵士全員が、何者かによって虐殺されました!」
「貴様! 立場をわきまえろ! ……待て、今なんと?」
数秒遅れて見回り兵の言葉が耳に届いた国王は、短剣を鞘から抜く途中で手を止め、彼をじっと見据える。
「両国の兵士全員が、何者かによって虐殺されました」
見回り兵が再び報告をすると、しばしの沈黙が訪れる。国王はぶつぶつとつぶやくと、カッと目を見開く。
「そんなことがあるはずないだろう! 両国合わせて1万人はいたはずだぞ!? それを一晩で皆殺し? そんなこと……」
勢い良くドアが開かれ、国王の言葉が遮られる。国王が顔を真っ赤にしてそちらを見ると、アストゥト傭兵団が憎悪で目をギラつかせながら、国王を見つめている。
見回り兵は悲鳴を上げて腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
「お、お前ら、どうして……」
「”どうしてここにいるんだ! 毒を盛った上に、兵士達に仕留めるように命令したのに!”ってか?」
フリッシュは国王の口調を真似ながら言うと、ゆったりとした足取りで部屋に侵入する。その後ろにはイディオとトント。大きなドアは、他の傭兵達が塞いでいる。
「ど、どうして……」
国王の真っ赤な顔は見る見る青ざめていき、唇がわなわなと震える。
「なんだよ、それしか言えねーのか? 国王サマよぉ」
フリッシュが鼻で笑うと、国王の顔は再び真っ赤になる。その様子を、傭兵団達は嘲笑った。
「貴様らが悪いのだ! 高い金をふっかけおって! 貴様らに払っている金は、税金なのだぞ!?」
「税金で贅沢三昧してるくせに、都合が悪くなるとそんなこと言うあたり、浅はかだよな」
「何!?」
フリッシュはベッドに近づくと見回り兵を踏みつけ、国王に顔をぐっと近づける。目前に迫る下卑た笑みに、国王は息を呑む。
「いいか? 優れたものを買うには、相応の金がいる。見た目が同じでも、金メッキよりも本物の金の方が高い。金銀財宝大好きな国王サマなら、分かるだろ?」
「き、貴様らなど……!」
国王が声を振り絞ると、フリッシュは葉巻に火をつけ、煙を国王の顔に吹き付けた。煙にむせる国王を冷めた目で見下ろすと、今度はベッドに座って見回り兵を蹴飛ばした。
見回り兵は蹴られた横腹を抱え、唸り声を上げるだけ。国王を守ろうという意志は、もう彼にない。
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