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「俺達アストゥトは、イキってるだけのそこらの傭兵と違うんだよ。今回の紫戦争だって、他の傭兵共は5,6人敵兵を殺して、『仕事しました!』って言うだろうよ。けど、俺達はなぁ……」
葉巻を見回り兵に投げ捨てると、国王を横目で見てニタリと笑う。
「カエルレウスもベルメリオも、全員殺した」
どこまでも残忍で冷酷な笑みに、国王は言葉を詰まらせる。底冷えした内蔵を守るように片手で腹を覆い、もう片手でなんとか身体を支える。吹き出した汗で寝間着がべったりと体に張り付き、顔を濡らす。
浅く呼吸を繰り返す国王を、フリッシュは嘲笑う。
「なぁ、国王サマ。俺達アストゥトは、報酬以上の働きをしただろ? 1年分遊んで暮らせるくらいの金に、毒入り高級ワイン……。それ以上の働きを。なんなら、もっとくれてもいいと思うんだがな?」
「何が、望みだ……」
カタカタと面白いくらいに震える国王の肩を抱き、耳元にヤニ臭い口を寄せる。
「国とかどうよ?」
「ならん! それだけはならん!」
フリッシュのとんでもない要望に、国王は声を荒らげる。フリッシュは耳障りだと言わんばかりに顔をしかめると、国王の手元にある短剣を取り、鞘を見回り兵に投げつけ、刃を国王の喉元に突きつける。
「ひっ……!」
「おい、そこの下っ端。ここに……なんていったか? 絵を描く奴。ソイツをここに連れて来い。それと、できるだけ多くの人を集めるんだ」
「で、ですが、兵士は……」
「誰が兵士っつった? 使用人でも国民でもなんでもいい。とにかく人を集めるんだ! 国王がどうなってもいいのか!? あ゛ぁっ!?」
「い、今すぐに!」
見回り兵はもつれる足を懸命に動かし、部屋を出ようとする。傭兵達は見回り兵が出られるように道を開けるも、誰かが彼に足を引っかけ、転ばせて嘲笑う。それでも必死に部屋を出ると、「誰でもいいから来てくれ! 国王がー!」と叫びながら走り回った。
見回り兵が出ていってから10分もすると、初老の宮廷画家が駆け込んできた。フリッシュは宮廷画家が手ぶらなのを見ると、盛大なため息をつく。
「お前よ、絵描きなんだろ? 絵描きが手ぶらでどうするんだ?」
「も、申し訳ございません! 今すぐ、画材を……」
フリッシュは何か思い出したように小さな声を出すと、出ていこうとする宮廷画家を呼び止めた。
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